装甲騎兵ボトムズ40周年記念第1話
バララント、ギルガメスという二大惑星連合国家による戦いが百年も続いているアストラギウス銀河、その銀河のギルガメス側の片隅で、ギルガメス軍の退役宇宙戦艦「テルタイン」が、航行しながら、ギルガメス軍の通信を傍受していました。
カルメーニ「ロッチナ大尉、聞こえるか?私だ、カルメーニだ。」
ロッチナ「はい将軍、ロッチナです。和平交渉は纏まりましたか?」
カルメーニ「馬鹿者!この戦争がそう簡単に終わると思うか!」
ロッチナ「はっ、すみません。そのような噂が流れていたもので・・・・・・。」
カルメーニ「バッテンタイン閣下より、お前に依頼があるそうだ、代わるぞ。」
バッテンタイン「バッテンタインだ。ロッチナ、戦艦テルタインを知っているか?」
ロッチナ「はっ、惑星ベラボスに係留されています。」
バッテンタイン「それが何者かに盗まれたらしいのだ、すぐ追跡してほしい。」
ロッチナ「お言葉ですが、テルタインは既に役目を終えた退役艦です。さほど重要とは・・・・・・。」
バッテンタイン「重要なのは艦では無く、その行き先だ。ビーコンによると、艦はLX-2045に向かっている・・・・・・。」
フットー「ふん、今頃気づいたか。」
トガル「連中が気づく頃には、仕事は片が付いて、もぬけの殻という訳ですな。」
キリー「諸君準備にかかれ!目的地に着いたぞ!」
テルタインの向かったLX-2045と呼ばれる地点には、小惑星がありました。そこでテルタインは百年戦争末期の主力兵器となっていた「A(アーマード)T(トルーパー)」、「装甲騎兵」の揚陸艇を発進させようとしていました。
キリー「オリヤ、コニン、準備はいいか?」
オリヤ「万事OKです!」
キリー「突撃隊員に異常はないか?」
コニン「はい!最終確認を急ぎます!」
キリー「特にMD(ミッションディスク)の確認には、念を入れろ!」
オリヤ「・・・・・・特にありません。」
キリー「・・・・・・例の男は?」
コニン「・・・・・・キリコですか?」
キリー「例の部隊から、突然に転属させられた男だ。何も聞かせていない、感づかれんようにしろ。」
オリヤ「もし感づかれても、ちゃんと手は打ちます。ご安心下さい!」
キリー「ようし、では行け!!」
装甲騎兵揚陸艇は小惑星に近付き、ミサイルを発射して侵入口を造り、乗りこんできました。そしてそこから、ATが次々と発進していき、すぐに小惑星基地を防衛していた敵ATとの戦闘となりました。
しかし、そこに入れられていた男、キリコ・キュービィーは、戦っている敵ATが、同じギルガメス軍のスコープドッグだった事に驚きます。
キリコ「・・・・・・味方だ!?隊長、相手は味方じゃ無いんですか?」
オリヤ「訳は後で話してやる、今は黙って戦え!!」
困惑しながらもキリコは、命じられるままに戦います。侵入者達は守備兵力を圧倒し、基地の奧へ進んでいきました。しかし、味方同士が殺し合う光景に、キリコの困惑は深まるばかりでした。
ひとしきりの守備戦力を駆逐した後、キリコは部隊の副隊長のコニンに聞きます。
キリコ「隊長!作戦の理由を教えて下さい!」
コニン「後で教えてやる!」
キリコ「何故味方を襲うんです!?・・・・・・訳を、訳を教えて下さい!」
コニン「貴様、俺の云った事が聞こえなかったのか!そこを動くな!命令だぞ!」
キリコは一人、置き去りにされ、途方に暮れました。そして侵入部隊は基地内に保管されていた膨大な量の黄金を見て歓喜していましたが、キリコには訳が判らなくなるばかりでした。
コニン「後は例の物だ!今度は簡単にはいかんぞ!」
キリコ「隊長!自分にも作戦に参加させて下さい!」
コニン「キリコ!これ以上の質問は軍法会議だぞ!!」
キリコ「隊長!」
コニン「全員キリコとの交信を絶て!五月蠅くてかなわん!」
疎外されたキリコを、残存ATのロックガンが狙っていました。
辛くもそれを躱して撃破したキリコは、ロックガンで生じた破口に機体を入れますが、そこで奇妙な箱のようなものを見つけます。
衝動的にキリコは機体を降りて、その箱に近付きます。その箱に言いしれぬ興味と恐怖のようなものを抱きながら、スイッチを押すと、箱が開きました。
その箱の中には、一人の裸身の美女が眠っていました。一体これは?とキリコが思う間もなく、その美女の目は開かれ、キリコを見つめました。
驚いたキリコは思わず銃を向けますが、撃つ事は出来ず、そのまま再び箱を閉じます。
キリコ「・・・・・・・なんだ?これは・・・・・・なんだ!?」
そう思った時、コニンがやってきました。
コニン「キリコ、お前そこで何をやっている?」
キリコ「・・・・・・これを、妙な物を見つけたもので・・・・・・・。」
コニン「あっ・・・・・・!?俺達の探していた物はそれだ!後はいい、任せておけ!」
機体に戻ったキリコは、コニンの指示で、外の母艦の様子を見るように云われますが、キリコはこの作戦内容に疑惑を確信していました。
キリコ「みんなあれが何か知っているんだ!何故隠す?・・・・・・・あれだって、退役艦のはずだ。やはりこれは、まともな作戦じゃない!」
しかし、それを探ろうと思ったキリコには爆弾が送られ、その爆風でキリコのスコープドッグは、宇宙の深淵に飛ばされてしまいました。そして、その小惑星リドも閃光と共に消滅してしまいます。
キリー「・・・・・・・充分だ。よし、撤退開始!!」
宇宙を漂うキリコは、ギルガメス軍の戦艦「バウントント」に収容されます。けれども、そこでキリコを待っていたのは、ジャン・ポール・ロッチナ大尉による拷問責めでした。
キリコ「うわあああああああっ!!」
ロッチナ「お目覚めのところすまないが、質問に答えて貰おうか!」
キリコ「・・・・・・誰だ?」
ロッチナ「質問はこっちがする!まずは、お前の名前と所属を言え!」
キリコ「・・・・・・キリコ・・・・・・キリコ・キュービィー!」
ロッチナ「生年月日は?」
キリコ「ギルガメス歴2074年・・・7月7日!」
ロッチナ「18歳か。所属は?」
キリコ「ギルガメスメルキア方面軍所属・・・2045部隊、機甲兵団・・・・・・。」
ロッチナ「・・・あそこで何をしていた?」
キリコ「作戦に・・・・・・参加、していた・・・・・・。」
ロッチナ「作戦内容は?」
キリコ「聞いていない!」
ロッチナ「何処の部隊だ?」
キリコ「・・・・・・知らない。」
ロッチナ「リドの研究所を爆破したのは?」
キリコ「俺は知らない!」
ロッチナ「お前を指揮していた者は?」
キリコ「オリヤと・・・コニン・・・・・・他の者は知らない!」
ロッチナ「では素体を何処にやった?」
キリコ「・・・・・・素体?」
ロッチナ「棺桶の様な箱があった筈だ。」
キリコ「・・・・・・あれか!?」
ロッチナ「中身を見たのか?」
キリコの脳裏に、正体不明の裸身の美女を入れていたカプセルを思い出されました。
キリコ「・・・・・・見なかった!!」
ロッチナ「嘘を言うな!!」
キリコ「知らない!俺は本当に何も知らないんだ!!」
ロッチナ「とぼけるな!!」
キリコ「俺は仲間に裏切られたんだ!だから後の事は・・・うわあああああっ!!」
ロッチナの質問に対し、身に覚えの無いキリコは必死に弁解しますが、それでもロッチナは追及の手を緩めませんでした。しかし、キリコに答えられる筈がありませんでした。
バッテンタイン「驚いたな、味方の仕業だったとは・・・・・・どうするかね?ロッチナ大尉。」
ロッチナ「バッテンタイン閣下、とにかく手がかりはこいつだけです、吐かせるしかないでしょう。」
バッテンタイン「うむ、こうなったら急がなければならんな。バララントとの和平を・・・・・・・。」
ロッチナ「はっ、閣下。私は直ちにメルキアへ戻ります。じっくりこいつを料理しましょう。」
キリコを乗せた、いや、護送したバウントントの窓から、キリコはメルキア星に刻まれた百年戦争の爪痕を見るのでした。
キリコ「メルキアは・・・・・ひどくやられたのか?」
ロッチナ「人口の3/4が死んだよ、だからあと一人くらい死んでも、物の数では無い。フフフフフ・・・・・・・。」
地上に降りても、ロッチナの責めは代わらず、キリコは激しい拷問に悶えます。
バッテンタイン「どうかね?ロッチナ大尉。」
ロッチナ「はっ閣下、脳刺激の拷問を続けているのですが、しぶとい奴です。キリコ!いい加減に吐け!!素体は何処だ!?」
キリコ「知らないものは・・・知らないんだ!!」
ロッチナ「・・・電圧を上げろ。」
フーセン「いかん!このままでは命に関わる!」
ロッチナ「フーセン軍医、君は事の重要性を理解していないようだな?]
フーセン「しかし・・・。」
ロッチナ「やれ!」
キリコ「うおあああああっ!!」
キリコの心臓がビックリして・・・・・・。
ロッチナ「どうした?」
医療兵「心臓が・・・・・・止まりました!?」
ロッチナ「馬鹿者!早く蘇生させろ!!」
そして、心臓に電気を流されたキリコは心停止から蘇りますが・・・・・・。
フーセン「彼に死なれたら、君も困る筈だ。今日は打ち切らせて貰うよ!」
バッテンタイン「ロッチナ大尉、奴は本当に何も知らんのかもしれんな。」
ロッチナ「いえ、閣下。あいつはどこか反抗的です。何かを隠しているに違いありません。」
キリコは営巣にブチ込まれそうになりますが、一瞬の隙を突いて、兵士達を撃ち倒し、基地を脱走しようとします。ロッチナの追撃を振り切って、遂にキリコはジェット機を奪って逃走しました。
メルキア兵「大尉!キリコが脱出しました!」
ロッチナ「何!?」
メルキア兵「戦闘機を奪って・・・・・・たった今です!」
ロッチナ「・・・・・・・キリコめ・・・・・・・!?」
メルキア兵「追跡しますか?」 「大尉、ご指示を!」
バッテンタイン「その必要は無い!フーセン軍医によると、キリコの体内には、既にビーコンが埋め込まれているそうだ。」
ロッチナ「・・・・・・メルキア全域監視ステーション並びに、衛星監視システム作動!!」
脱走出来たと思いきや、キリコの動きは掴まれていて、ロッチナは確信していました。
ロッチナ「奴は知っている・・・・・・・知っているんだ!!」
俺の運命を狂わせたあの忌々しい戦争は、その日、終結した・・・・・・・。
だがそれは、何の意味も無い。
あれを見た時から、俺自身の戦いが始まっていたのだ!
果てしのない戦いが・・・・・・・。
次回予告
ロッチナの手を逃れたキリコを待っていたのは、また地獄だった。
破壊の痕に住み着いた欲望と暴力、百年戦争が生んだソドムの市。
悪徳と野心、退廃と混沌とを、コンクリートミキサーにかけてぶちまけたここは惑星メルキアのゴモラ。
次回「ウド」
来週も、キリコと地獄に付き合って貰う。