2015年3月4日水曜日 午前
朝目覚めると、いつもの調子で掛け布団を蹴飛ばして起き上がり、顔を洗う準備。
しかし、いつもの自分とは違う。
身体が異常に冷えきっている。
でも、寒気は感じられない。
目の前に映る部屋、身体の中を流動する血液の感触、物を掴んだ時の手触り、全ての感覚が変だ。
明らかに目覚める前の自分とは違う。
一体、身体の中で何が起こっているのかわからない。
それとも、これは夢なのか?
いや、これは現実で間違いなくこの身体は私自身。
とにかく、今日は会社に電話して休みをとり休養しなければ。
気になるのは、やはり一昨日のデパートでの出来事。
会社帰りに何気なく立ち寄ったデパートの雑踏の中で、前から私の方に向かって歩いてくる人影。
実際なら人影ではなく、はっきりと人物が見えるはずなのだが、何故か薄ぼんやりした人影にしか見えなかった。
特に目が悪いわけではないし、一瞬目が霞んだとしても目の前全体が霞んで、一人の人物だけが霞む事はありえないはず。
しかし、あの時は確かに薄ぼんやりして、まるで幽霊が歩いて来るかのような感じさえもあった。
私の方に近づくにつれてその人影のようなものは、まるで私を見つめているかのようにも思えた。
ちょうど私とすれ違う時に、一瞬、時間が止まった気がした。
そして、その人影のようなものは、私の顔を見つめて話しかけてきた。
一瞬の事で、言葉ははっきりとは聞き取れなかったのだが、今までに聞いた事がない言語だ。
いや、言語ではなく音?
いや、音と言うよりもメロディに近く、優しくもあり激しさもある、私にはとても心地よい響きに聞こえた。
この会話のような一瞬が過ぎ、人影のようなものは私とすれ違った。
慌てて振り返ってみると、雑踏に紛れてか、姿は何処にも見当たらなかった。
昨日から、この不思議な出来事が頭の中から離れていかず、何も手に付かなくなっている。
そんな事を考えていると携帯電話の着信音がなった。
香織からだ。
「梨沙、大丈夫?病気で休むなんて珍しいよね。仮病で休む事はあってもさ。」
「そうだね。悪いんだけど調子が良くないから切るね。」
香織の言葉に苛立ちを感じ、いつもならこんなことを口走ったりしないのに。
電話を切った数分後、また香織から電話がきた。
とても出る気になれず、携帯電話の電源を切ってしまった。
やはり私の身体には、今までに感じたことの無い異変が起きている。
しかも、私の想像を超えた速いスピードで。
