8年ほど前、私は妻方の姪(妻の兄の娘)が持病で近くの病院に入院したと聞き、何回か見舞いに訪れることがありました。

 

姪っ子は22歳。

15歳の時より拡張型心筋症という心臓病を患い、入退院を繰り返していました。

 

姪は小さい頃から結婚式は絶対に洋式でウェディングドレスを着ることを夢見るような素朴で純粋な女の子でした。

 

 「また入院だって? 大変だったね。」

 

私はそう言って、姪の病床に見舞に行くと本人は意外に明るい表情で

 

 「叔父さん、見舞いに来てくれてありがとう。もう入院も慣れっこだよ。」

 

という返答。

 

 「でも、早く家に帰りたいよね。病院って何だか辛気臭いでしょ?」

 

私がそう言うと、姪は「そうでもないよ。」といった表情をして見せた。

すると突然、「失礼します!」といって医師が姪の病床にやって来た。

 

 「心電図のモニターをチェックします。呼吸とか苦しくないですか?」

 

まだ若いイケメンな医師で胸元には研修医というタグが付いていた。

 

 「大丈夫。苦しくないいし、今日はとても気分がいいです。」

 「そう、よかった。でも、無理したり、我慢とかは絶対にしないでね!」

 「あっ、そうそう先生。 今度のバレンタインデーにチョコあげるよ。」

 「エッ、本当! いや~嬉しいな。担当になった役得かな。じゃあまた!」

 

1分程度の姪とのやり取りが終わると、そのイケメン研修医は慌ただしくどこかへ立ち去って行った。

 

 「そうゆうこと?」

 

私が姪に言うと、姪は「そうゆうことです。」と笑顔で返して来た。

姪は若い研修医にちょっとした恋心を抱いているようだった。

 

 

その後、私が再び見舞いに訪れると姪は病床でイヤホンを付けて何か音楽を聴いていました。

 

 「何を聴いているの?」

 

私が訊ねると「AKB48の曲」だという答え。

 

 「わたしね、この曲が今、一番好きなんだ。」

 

そう言って姪が私に聴かせてくれたのは"365日の紙飛行機"という曲でした

 

♪♪365日の紙飛行機 - AKB48(フル) (youtube.com)

▲歌詞付

 

♪♪ 【MVフル】 365日の紙飛行機/ AKB48 [公式] (youtube.com)

▲AKB48公式バージョン

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朝の空を見上げて 今日という一日が
笑顔でいられるように そっとお願いした

時には雨も降って 涙も溢れるけど
思い通りにならない日は  明日頑張ろう

ずっと見てる夢は 私がもう一人いて
やりたいこと 好きなように
自由にできる夢

人生は紙飛行機  願い乗せて飛んで行くよ
風の中を力の限りただ進むだけ
その距離を競うより
どう飛んだか
どこを飛んだのか
それが一番大切なんだ
さあ 心のままに
365日

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明るく、楽し気なメロディーとは裏腹に私は歌の歌詞を聴いて複雑な気持ちにさせられました。

 

姪の持病は重い心臓病。

調子の悪い日も少なからずあります。

 

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朝の空を見上げて、今日一日が元気でいられるかお願いする

辛い日、調子の悪い日は明日頑張ればいいと考えよう

 

ずっと見ている夢は 病気ではない自分がいて

やりたいことを好きなようにできる夢

 

人生は紙飛行機のよう。 願いを乗せて飛んでいく

運命の中を力の限り進んでいく

どれだけ生きられたかよりも

どう生きたか

どの世界を生きたのか

それが一番大切なんだ

さぁ、心のままに毎日を生きて行こう

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私には歌の歌詞がそう言っているようにしか聞こえず、切ない気持ちにさせられたのです。

 

 「叔父さん、大丈夫? そんなに感動したの?」

 

姪はそう言って私の顔を不思議そうに眺め込んでいました。

 

 

 

それからひと月あまり後、姪は突然この世を去りました。

心臓移植しか完治の見込みがない病。

後で知ったことですが、既に主治医から義兄夫妻には

 

「いつ、急変してもおかしくないので、覚悟だけはしておいてください。」

 

という宣告を受けていたとのこと。

 

葬儀には姪の担当だったあのイケメン研修医が来ていました。

 

 「僕にとっては特別な意味を持つ患者さんでした。」

 「何もしてあげられませんでした。心臓外科医を目指すつもりです。」

 

彼はそう言って深々と頭を下げました。

 

出棺に際しては、姪の小さい頃からの憧れだったウェディングドレスを着せて死装束としました。

 

火葬場の職員が姪の死装束を見るなり、一瞬悲痛そうな表情を浮かべたことは忘れられません。

 

姪っ子よ、あなたは22年の短い生涯を

どう生き、どの世界に生きたのですか?

イケメン研修医との恋はどうだったのですか?

 

私もあなたに恥じないよう、どう生き、どの世界を生きたのかキチンと語れるよう精進していくつもりです。