長男、高校1年の冬休みがあけると1週間ほどの授業の後、後期試験に突入です。

登校はあれほど渋っていたのにテスト期間はすんなり高校に行く長男。

学校に行ってテストを受けて帰宅するだけなので、人と関わることはありません。

不登校の原因が学力不振ではなく、何かしら人との関係がある感じがしました。

 

「もうちょっとだから、頑張って学校へ行け!」

 

後期の期末テストが終わると、高校入試がはじまります。

2月半ばごろから2月末までは入試のため高校は休み(自宅学習期間)。

3月は球技大会などの学校行事しかなく、長男のうつ病事情もあって2月半ばから4月はじめまで高校を休むことができました。

 

「この1カ月半ほどの休みで長男のうつ病も治るかも知れない。」

「高校2年からはリセットしてきっとやり直せる。」

 

そんな淡い期待を私は抱いていました。

実際、長男の表情も明るくなり、家では以前と同じように普通に過ごしていたからです。

 

「病院(メンタルクリニック)だけど、家から歩いて5分のところにしないか?」

 

思春期の子も診てくれるメンタルクリニックでしたが車で15分以上かかり、予約制にもかかわらず1時間以上待つことが多く、抗うつ剤をもらうためだけに行くような感じだったので自宅近くの病院に転院を考えました。

 

「うん、いいよ。」

 

長男も快諾。

抗うつ剤の処方だけなら対応するという条件で高校生の長男を診てもらうことになりました。

 

「以前、俺もお世話になった良い先生だから、心配いらないよ。」

 

長男にそう言って変な心配をさせないようにしました。

 

「お久しぶりです。その節はお世話になりました。」

 

10年以上昔、連日の遠方出張で心身ともに疲弊してうつ病になった私をいち早く助けてくれた医師。まさか今度は息子が世話になるとは思いませんでした。

 

「やぁ! はじめまして。 お父さんからいろいろうかがっているよ。大変だったね。」

 

笑顔で気軽に長男に話しかける医師。

しかし、長男の様子が少しおかしいことに気がつきました。

うつむいたまま、何も話さない長男。

 

「初対面だからね。ちょっと緊張しちゃうよね。」

 

医師はそう言うとサッと自分が着ている白衣を脱いで、ワイシャツ姿になりました。

医師の白衣を見て緊張する人がいるので、それに対する精神科らしい配慮なのだと思いました。

 

「・・・・。」

 

それでもうつむいたまま無言でいる長男。

しばらくすると蚊の鳴くような声で

「す、すいません。ボク・・・ボク・・・」

そして、大粒の涙を落としたかと思うと、号泣しはじめました。

 

何が何だか分からない私。

精神科の医師はそういうことには慣れっこなのか、さほど驚いた様子はありません。

 

「いいんだよ。不安だよね。どうしようもない時は泣いていいんですよ。」

 

結局10分近くも長男は診察室で号泣していました。

 

「今日はね。挨拶ってことで、また今度ここに来てよ。」

「ちょっとお父さんと話するから、待合室でひとりで待っててね。大丈夫かな?」

 

すると長男、ようやく

「大丈夫です。すみませんでした。」

と医師に頭を下げて診察室を後にしました。

 

「お父さん、息子さんは社交不安障害があるみたいですよ。抗不安薬出しますか?」

 

医師が口にした社交不安障害という初耳の言葉。

発達障害グレーとか場面緘黙とか、次々にいろいろな用語が飛び出してきて頭の中は大混乱です。

 

「抗うつ薬に加えて抗不安薬って・・・まだ息子は16歳なんですけど・・・。」

 

そういうと医師は確かに社交不安は薬で治療するものではないので、抗不安薬はあくまで対処療法だといいます。

 

「私は思春期の子の緘黙とか社交不安とかには正直、詳しくありません。」

「大学にそういうことの専門家がいますが、行ってみますか? 連絡しますよ。」

 

また医者の所に行くのかと思いきや医師ではなく、発達障害に詳しい心理学者で特に緘黙や社交不安を研究している国立大の准教授だといいます。

ただ場所が北陸地方の大学という話で、少しだけ腰が引けました。

 

「緘黙や社交不安は薬では治すことができません。」

「訓練や慣れで克服していくしかないので、頼るべきは医師ではありません。」

 

なんか医者にも見捨てられたのかと感じてしまう私。

医師は真摯に対応してくれているのですが、そう取れない程戸惑っていたのです。

 

「並外れた強い不安は脳の前頭前野と扁桃体のバランスが微妙によくなく、扁桃体が活発化しているという研究報告があります。」

「ご家庭での育て方とかが原因とは言えない部分も大きいので、ご自分を変に追い込んだりしないで下さい。」

 

医師が付け足した最後の言葉に私は少し救われた気がしました。

育て方ではなく、扁桃体の活発化と前頭葉との微妙なバランスにも影響がある・・・

 

「だったら、やっぱり医師の分野なのでは?」

 

と思いつつも医学的に立証されていないレベルで仮説なのだなぁと諦めました。

 

 

そして、この出来事以降、長男は初対面の人と面談したりすると泣くようになってしまいました。

 

一番驚かれたのは携帯電話(スマホ)の契約の時でした。

長男にいろいろとスマホのどんな機能が欲しいのか?

高校生だったら今、こんなアプリが流行しているが興味はないか?

そんな内容なのに子どものように泣く長男を見て、ドン引きする携帯ショップの店員さん。

 

「ちょっと今、辛いことがあって精神的に不安定なんですよ。」

 

わたしがそう取りなすものの相手は首を傾げるばかり。

 

「こりゃ、そのまま放置していたらマズいかもしれないな。」

 

北陸の国公立大学のところへ行くしかないか・・・。

そう思い始めた矢先でした。

4月の新学期になり、長男のうつ症状も改善されたというのに予想外の完全不登校が始まりました。

 

長男、高1の時は何とか頑張って登校しようとする意志が見られたのに、高2になると最初(ハナ)から登校する気がなくなっていたのです。

 

妻が高校に行くよう長男に強く促すとふて腐れた感じで家を出て、どこかで時間を潰して家に帰って来るようになりました。

加えて、学校に登校しても勝手に早退してくることも増加し、見かねた学校が親を呼び出す事態になっていきました。

 

「無断欠席、無断早退、遅刻など目に余るものがあります。」

「停学処分になる前に事情などを聴取したいので高校にお越しください。」

 

状況は改善するどころか悪化の一途です。

あわてて高校に呼び出されて行くと、4月から新しく着任した副校長が厳しい表情で私に向かって言い放ちました。

 

「停学は覚悟してください。」

「この状況は退学も視野に入れた方がよいかと思います。」

「通信制高校への編入を強くお勧めいたします。」

 

絶体絶命の状況に追い込まれました。(・・・つづく)