看取りのため、母を退院させて自宅に帰すことを決意した私。
二ヶ月近い入院生活で母の手足は点滴による内出血で真っ黒。
痛々しい状態であり、それでも容赦なく点滴や薬のチューブがつながれ身動きできない様子を目の当たりにして感傷的になったことが、自宅での看取りを決意させたともいえる。
格好よく自宅で母を看取ると宣言したものの、具体的にどうしたらよいのか介護素人の私には想像がつかなかった。
そこで母のケアマネージャーに連絡を取ると
「大きな決断をされましたね。自宅で看取るというのは結構大変なことです。」
「看取りのための医師や看護師、ケアスタッフなどと連携しないとなりません。」
「少し時間がかかります。一週間ほど時間をください。」
と言われた。
自宅で母親を看取るというのは素人が想像するよりも数段大変なことなのだと初めて知ったのだった。
父も高齢なので家で母を看取るという私の主張には尻込みをした。
体力的、気力的に自信が持てないというのだ。
『言うは易し、行うは難し』とは正にこのことだと思った。
さらに、母が自宅で臥せっていた時に私に言った言葉を想起して心が乱れた。
「もうじき死ぬのかなぁ? まだ、もうちょっとだけ生きていたいなぁ・・・」
母はまだ生きたかったのではないか? 病院で手足が真っ黒になるまで点滴されて苦しそうにしている姿を見て感傷的になって自宅で看取ると宣言したが、短慮だったのではないか?
そんな思いが私の頭の中で渦を巻き始めていた。
思い悩んで、母のケアマネージャーに自分の気持ちを相談してみた。
母を看取るからとケアを要請した本人が、よくわからなくなったというのだから本末転倒かもしれない。
そんな私の悩み事相談にケアマネージャーは答えてくれた。
「皆さん、迷いますよ。当然です、正解などないのですから。」
「自宅で逝かせてあげるというのは最後の大切な節目なんです。」
人生最後の大切な節目という言葉は当時の私には何よりの救いになった。
結局、自宅で看取ると宣言してから10日後に母は退院して、家に帰ってきた。
人生最後の節目を迎えるために。