松田優作ファンであれば、『野獣死すべし』をベスト・ムービーに挙げる方は少なくないのではないでしょうか?
よくも悪くも、刺激的な作品であること間違いなし。一度観たら、あまりの破天荒な内容に、忘れることはできない名作であり、原作度外視の問題作。
BD購入後、10年以上ぶりに観直しましたが、令和になっても、とてつもないパワーを持ち続ける本作に感嘆せざるを得ません。
自分もいいオジサンになり、フラットな視点で本作を観れるようになりました。ベタベタ褒めちぎることなく、この『野獣死すべし』への想い、感想を書き綴ってみたいと思います。
※ガッツリ、ネタバレです。ご注意下さい。
(1980年公開 上映時間 1時間58分 監督 村川 透)
ストーリー
通信社の記者として世界各地の戦場を渡り歩いた伊達邦彦。
帰国後、通信社を辞めた伊達は、翻訳の仕事をしていたが、その裏で銀行強盗を計画していた。
彼は、反抗的な態度を取るウェイターの青年、真田徹夫を現金強奪計画の仲間に誘い、2人は銀行強盗を実行するが…。
感想
「何じゃあ!? こりゃあ!?」
本作を最初に観た時の感想。これは今でもよく覚えています。
中学生のころ「水曜ロードショー」が初見だったと思いますが、とにかく期待していた内容との乖離が凄まじかった。
表と裏の顔を使い分け、完全犯罪に挑む、ピカレスクヒーロー伊達邦彦の物語を観たかったのに、内容はキチガイ男のワンマンショー。一体、何をみせられてるんだと呆気に取られたものです。
演じる松田優作は、当時の自分にとってマイ・フェバリットアクター以上の、唯一無二の存在。
『太陽にほえろ』のジーパン刑事から始まり、『探偵物語』の工藤ちゃん、『遊戯シリーズ』の鳴海、『蘇える金狼』の朝倉。ただカッコいいだけでなく、抜群のユーモアセンス、そしてどこか狂気を感じさせてくれる、腕っぷしの強いダークヒーロー。当時の中学男子なら誰もが憧れる、男の中の男的存在だったかと思います。
そんな優作がガリガリに痩せて、まるで幽鬼のような存在で劇中を終始ユラユラ漂っているワケです(実際に10㎏以上の減量。上下4本の奥歯を抜歯)。その上、なんだかよくわからんラスト。モヤモヤ感が残ったのが初見感想だったのですが...
とはいえ、最初からこーいう映画だと分かって観ると、トンデモなく面白く感じてしまうのが、この映画の異様な魅力!!
ヘッピリ腰で拳銃を乱射し、アタフタする優作。
大金に顔を埋め、恍惚の顔を浮かべる優作。
分不相応な豪華な一室でのロシアンローレット。呆けた顔の優作。
無表情で小声。終始、死んだ目をしている表の顔の優作。
冒頭チキンぶりはどこへやら。何の落ち度もない売人をクールに射殺する優作。
恋人を殺害した真田に向かい、熱狂的な大演説を始める優作。「キミはいま確実に美しい!!」
銀行強盗に入るも、滅多やたらに人を殺しまくる優作。
自分を愛してくれた女に向かい、惜別の銃弾を撃ち込む優作。
終始、自分に付きまとっていた柏木をネチネチいじめる優作。「リップ・ヴァン・ウィンクルの話って知ってますかぁ」(これは実際にあるアメリカの短編小説)。
突然、戦場のフラッシュッバック。電車内で軍服に着替え、小銃片手にテンション爆あがりの優作。
真田がイキがる暴走族風の男を殺すのを観て、地団駄踏みながら大興奮の優作。
戦場体験をまくしたてる、超絶長い一人芝居の優作。「オレは狂ったようにシャッターを切った!!切った!!」「エクスタシー。エクスタシィ!!」
…なんだか鉄拳風ですが、とにかく麻薬的とさえいえる演技の数々。狂った松田優作を徹頭徹尾、堪能出来るのが楽しくて仕方ありません♪(実際、学生時代よくモノマネしました)
もちろん忘れてならないのは、相棒の真田演じる鹿賀丈史。未見の若い映画ファンこそ観てもらいたい、彼のどチンピラっぷり!!
アフロに浅黒い肌。落ち着きがなく、粗暴ですぐ頭に血が上る、絶対に雇いたくない男ナンバーワン。こんなアブナクてどーしようもないヤツを、メチャリアルに演じており、落ち着いた大人の役が相応しい、ダンディな今の鹿賀丈史ととても同一人物とは思えません。本当に素晴らしい!!
あと今回観直して思ったのが、これは一歩間違えれば、けっこう危ういバランスだったということ。
正直、優作演じる伊達邦彦は度を越し過ぎたキチガイぶり。彼の劇中の行動原理はハチャメチャですし(銀行強盗する動機が皆無。大量殺人なら納得)、松田優作を知らなければ爆笑する人がいてもおかしくない、かなりヤバ目のレッドゾーン。
そこを脇を固める、前述の真田や、彼に疑いの目を向ける柏木(演じる室田日出男の、ねちっこいリアリズムある刑事像が秀逸)の存在があって、この最高のワンマンショーを成立させたのでないでしょうか。
あと終始流れる「野獣死すべしのテーマ」。これがまた名曲中の名曲。
とにかくこれがかかると、場面がすべてそれっぽく、イイ感じに思わせてしまう、まさに魔法の一曲。このテーマ曲が有る無しではずいぶん映画の印象が変わっていたかと思います。
共感出来ない主人公、破城した設定とストーリー、そして最悪の夢オチ風ラスト。本来であればマジで気に入らない要素を多分に含んだ作品なのですが...大好きで愛しくてたまらない映画。
生涯で松田優作以上に、好きになった俳優は出てきませんし、そんな俳優が演じる、ここまで狂いまくった映画に出会うことも無いでしょう。
自分が心の底から愛している映画。それが本作です。
満足度 100点
※今回で当初目標、ブログ100記事に到達いたしました。今後もお立ち寄りいただけると幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。m(__)mペコッ