『レスラー』は文字通り、プロレスラーが主役。そしてプロレスそのものを題材にした映画です。

 

プロレスファンの自分であれば、当然観るべき映画だったんですが、機会を逸しそのままスルーしてしまった本作(そういう映画ってけっこうアリあせる)。

 

いつか観ようと思いつつ、気づけば2022年に突入していたワケですが、「TELASA」解約にあたりサブスク映画物色したところ本作を発見!遅まきながらの観賞(2022年9月30日)となりました。

 

そんな折、あの燃える闘魂アントニオ猪木死去のニュース。

 

アントンは自分が一番初めに好きになったプロレスラーであり、一番好きだったプロレスラーです。

 

闘病で大変だったと思います。しかし、79歳という年齢はプロレスラーとして考えれば、長生きされた方ではないでしょうか。

 

プロレスは短命が珍しくない過酷な職業です。本作でも触れてましたが、プロレスラーのステロイド問題はかなり根深いものがあるかと思います。

 

そんなプロレスラーの性(さが)を描き、ミッキー・ロークが奇跡の復活を遂げた『レスラー』。プロレス映画の最高峰といえる本作感想を書いてみたいと思います。

 

そしてプロレス最強の夢物語を信じさせてくれたアントニオ猪木さん。本当にありがとうございました。

 

 

 

(2008年公開 上映時間 1時間55分 監督 ダーレン・アロノフスキー)

 

  ストーリー

 

かつては人気プロレスラーであったランディ・“ザ・ラム”・ロビンソン。いまはドサ周りの興業とスーパーのアルバイトでその日暮らしの生活を送っていた。

 

ある日、試合後に心臓発作を起こした彼は医師から引退を勧告される。

 

プロレスを諦めたランディは疎遠だった娘との関係を修復しようとするのだが...

 

 

  ランディとミッキー・ローク

 

本作バックストーリーは『ロッキー』と非常によく似てます。

 

大物俳優の起用を条件に、制作会社は予算の大幅な増加を監督に申し入れたが、監督がミッキー・ローク主演を頑に譲らなかったため、わずか600万ドルという低予算作品となったこと。

 

結果、アメリカのみならず、世界的なヒット作品となり、第65回ヴェネツィア国際映画祭を初め、54個もの賞を受賞したこと。

 

そして、落ち目だったミッキー・ロークが、本作で奇跡の復活を遂げたことです。

 

自分が映画少年だったころのロークは、『エンゼル・ハート』や『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』など大作に立て続けに出演。眩しいばかりのハリウッドスターでした。

 

ただ個人的には「カッコつけのナルシスト。猫パンチのボクサーもどき」などあまりいい印象はナシ。当時は世間的にも、こんなイメージがけっこうあったかと思います。

 

そんなロークも90年代に入ると人気は低迷。91年から95年にはなんとプロボクサー(!?)としてリングに立つも俳優業の仕事は激減、整形手術失敗など、まさにどん底の生活を味わいます。

 

当時のロークであれば、制作会社が他の俳優をチョイスしたくなるのは、分からないこともありません。

 

しかし、本作を観れば彼が適任と分かります。アロノフスキー監督は当然分かっていたでしょう。ランディはミッキー・ロークそのものということを。

 

 

ダメ男です、ランディは。悪いヤツではないがダメなヤツ。

 

 

人気レスラーであったころは相当稼いでいたでしょう。しかし、落ち目になったいまは家賃も払えない一文無し。

 

毎日を刹那的に生き、無計画に散財した結果、妻とは離婚、娘とは疎遠になった孤独で愚かな男です。

 

しかし、そんな彼がロッカールームに行けば、周りのレスラーは伝説のレスラー(レジェンド)と皆リスペクトし、歓迎してくれます。

 

己のキャリアを自慢するだけの、鼻持ちならないロートルであればこうはならない。ランディがグットハートの持ち主なのは間違いありません。

 

ちなみに本作はグッとくるエピソードが多い映画なのですが...

 

映画の主題歌「The Wrestler」(エンドロールに流れる。名曲!!)はブルース・スプリングスティーンが、ロークから送られた手紙と映画スクリプトを読んで書き下ろした曲であること。

 

ランディの入場曲「Sweet Child o' Mine」は、ガンズのアクセルローズが本作が低予算作品と知り、無償で使用を許可したこと。

 

 

 

 

 

あくまで推測ですが、彼等ビックネームの協力は、ローク自身がけっこういいヤツであり、彼の復活を手助けしたい想いがあったのではないでしょうか。

 

本物のプロレスラーと見紛わない肉体を作り上げ、リング上で泥臭いプロレスを実演し、そして栄光から滑り落ちた男そのものを演じたミッキー・ローク。

 

スタローンのロッキー・バルボアに勝るとも劣らない、ハマリ役だったと思います。

 

 

  感想

 

プロレスは他のプロスポーツや格闘技と似て異なるものと個人的には思います。

 

一番、大きいのは勝負論です。プロレスは必ずしも試合に勝った者が人気者、スター選手になれるワケではありません。

 

攻めるのみ、攻撃だけではまったくダメです。相手の攻撃をどこまで受け切ったか。その身を削った試合をどれだけファンに提供できたのか。

 

他にもさまざまな要素があり、プロレスは本当に奥深いのですが、負けた選手の方が評価が高まり、オーバー(人気)するケースは少なくありません。こんなこと他のスポーツでは考えられないことでしょう。

 

そんなプロレスに魅了された男たちが、本作では数多く登場します。

 

もちろんランディもその一人ですが、他のレスラーたちも同様です。特に本作はインディペンデント(独立系団体)を舞台にしているため、余計にそう感じます。

 

メジャー団体と違い、彼らのギャラは微々たるもの。しかし、自らの身体を犠牲にしてもプロレスが大好きでタマラナイ、そんなプロレスバカの心意気が本作ではビンビンと伝わります!

 

本作はバックステージで選手たちが、当日のショーを盛り上げようと熱心に打ち合わせをしているシーンなど、プロレスの裏側がかなり細かく描かれます。

 

ただそれらのエピソードは暴露的な覗き見趣味ではなく、プロレスとプロレスラーへのリスペクトがしっかりと感じられ、本作を描く上でも必要な場面だったと思います。

 

 

ランディは他の多くの選手より恵まれていたと、プロレスファンの自分としては感じます。

 

 

人気選手としてメジャーシーンで活躍ができるレスラーはほんの一握りです。

 

しかも、彼はファンの記憶に残る名勝負をやり遂げた。いまはドサ周りかもしれませんが、それでもファンも仲間も彼を待ってくれるのですから。

 

ただランディ自身は未来を感じてはいません。

 

「俺にとって痛いのは外の現実の方だ」

 

ランディの言葉は悲痛です。しかし、その原因は彼のだらしなさによるものです。

 

ただそれは観ている観客側の自分と無縁のものでもありません。

 

ランディの自殺まがいの行動を肯定はしませんが、そんな自暴自棄の気持ちは分かります。

 

苦い映画です。しかし、プロレスラーの矜持も同時に感じられる素晴らしい作品でした。

 

 

ラストのランディの表情 忘れることはないでしょう。

 

 

満足度 75点