『仮面ライダー』の劇場用映画は主に1年間で夏と冬、2回あります。
冬の仮面ライダー映画は完結したライダーと、9月から始まった新ライダーが共闘する劇場版オリジナルストーリーがメイン。
個人的には冬のライダー映画は、シリーズを観続けたファンに対する一種のご褒美のように感じます。
前シリーズのライダーの雄姿、オリジナルキャストの演者が、半年も経っていないのに何ともいえない懐かしさ。これはシリーズを観ていた視聴者しか得られない特権だと思っています。
翻って、本作『劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME』はこのルーティンとは少し違っています。
「仮面ライダーゼロワン」はコロナ禍が直撃したため、夏の劇場版がつくられなかった作品なのです。
本作は冬のライダー映画ですが新ライダーとの共闘は無く、最終話以降に勃発した世界的な大事件というストーリーになっています。
しかし、結果的にはこれが大正解。
過去の仮面ライダー映画と比べても、本作は屈指の完成度。傑作『劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME』について感想を書いてみたいと思います。
※映画のネタバレは極力避けますが、TVシリーズのネタバレはあります。ご注意下さい!
(2020年公開 上映時間 1時間20分 監督 杉原 輝昭)
ストーリー
TVシリーズの最終対決から3か月後。世界を破壊し新たな楽園を創造しようとする謎の男エスは、数千人の信者ともに世界各地で大規模な同時多発テロを引き起こす。
飛電或人は仮面ライダーゼロツーに変身し戦うが、仮面ライダーエデンに変身したエスに敗北。ドライバーとプログライズキーを奪われてしまう。
人類滅亡までに残された時間はわずか60分。世界中が大混乱に陥る中、或人たち仮面ライダーは世界滅亡の阻止のため、エスたちに闘いを挑む。
或人とイズ
人間とヒューマギアの共存を夢見る、飛電インテリジェンスの二代目社長・飛電或人と秘書型ヒューマギアのイズ。
イズは或人を通して人間を学び、あらゆる経験をラーニングした結果、シンギュラリティ(技術的特異点)に達します。
そして人間の脳と同レベルのAIとなったイズは、本当の意味で人間の心を理解するようになり、或人に対し特別な感情を抱くようになります。
或人もそんなイズに対し、恋人に等しいほどの愛しい感情を持ちます。
或人は最初はかなりウザいキャラでしたが(理想論者の上に寒いギャグ)、そのひたむきな姿、演じる高橋文哉さんの熱演に気付けば大好きな主人公に。
イズもその可愛いルックはもちろん、無償無欲で或人につくす、健気すぎる彼女に観ているこちらもメロメロになってしまいました。
或人とイズ。仮面ライダー史上最高のカップルと差し支えないこの二人。
それなのに、なんとイズは...
殺されてしまうんです。終盤で。
ヒューマノイドなので厳密には「破壊」なワケですが、イズが蓄積していたデータも同時に消滅したため、実際には「死」と同等です。
或人は絶望し、闇落ちします。彼が感じた絶望感、喪失感はいかに深かったものか(あまりの衝撃的なイズの死に、自分もマジで泣きましたね...)
映画で出てくるイズは二代目で、中身は全く別モノです。
映画序盤、或人は自分についてこようとする二代目イズを怒鳴りつけます。
「ダメだ!!...もう二度と危険な目にあわせたくないんだ」
或人の想いが痛いほど伝わり、これだけで自分はウルッとしてしまいました。
滅 / 仮面ライダー滅
そして、イズを破壊した張本人。それが「滅(ほろび)」です。
彼はTVシリーズ前半のテロリスト集団「滅亡迅雷.net」の首謀者。彼らの目的は「人類抹殺」。人類の下請け的存在であるヒューマノイドの解放です。
「滅亡迅雷.net」はゼロワンを始めとする人類に一旦は敗北するも、後に復活。一度は或人たちと共闘しますが、当初の目的に殉じる覚悟のある彼は再び人類と敵対します。
同じヒューマギアであるイズは、そんな彼を説得しようとしますが、「滅」は「心など俺には存在しない」と頑なに否定。イズを破壊してしまうのです。
あの可愛いイズを...人を愛する心を理解したイズを殺すだなんて言語道断。
「滅、キサマは万死に値する!」(ティエリア口調で)。
そう感じた視聴者は少なくないと思います。
だが、そんな彼もイズ同様、実はシンギュラリティに達していました。
憎しみではなく、もっともイタイところをイズにつかれ(忌み嫌っていた人間の心を得た自分)、激情に任せてイズを破壊してしまったのです。
TVシリーズの最後、或人の悲しみをも理解した彼は、世界が悪意に支配されないよう、人類とヒューマギアを影から見守る存在として姿を消します。
彼は深く後悔したと思います。自らの犯した取り返しのつかない行為に。
本作では、そんな彼が初めて人類を守るために行動を起こします。
エスこと仮面ライダーエデンの目的はあくまで人類がターケッド。ヒューマノイドは蚊帳の外です。しかし、彼はエスの野望を阻止しようと人類を守る側に立ちます。
暴虐の限りを尽くす、無数の仮面ライダーアバドンの前に立ち塞がる「仮面ライダー滅」。
かつては人類滅亡を掲げた男(ヒューマギアですが)の亡きイズのための贖罪の闘い。
そんな「滅」の雄姿にメチャ胸アツになりました。
感想
冒頭から、いきなり仮面ライダーゼロツーと敵ボスの仮面ライダーエデンの死闘から始まる本作。
これが互いの長所をぶつけ合う名勝負。「劇場版龍騎」を思わせる重厚な音楽も相まって、最高のオープニングで始まる本作は、最後までその面白さは途切れことはありません。
敵側は謎の男エスに率いられたカルト集団。正体不明のガス兵器による世界同時多発テロという絵空事とは思えない破壊行為。そして60分という時間設定が、本作の緊張感をいやがおうでも高めます。
また信徒が全てアバターというのも非常に現代的。本人自身を投影する場合もあれば、実像とかけ離れた理想の姿もあり(恰幅が良い中年女性がアバターでは美少女etc)、「仮面ライダー」という作品から離れ、他の作品で使われても非常に秀逸な設定たど思います。
そして、世界を破滅させようとする首謀者、謎の男エス/仮面ライダーエデンを演じるのは、なんとあの伊藤 英明氏。
今までの仮面ライダーも大物俳優の主演はありましたが、まさに最強クラス、SSSの降臨です(『悪の教典』のサイコパスぶりには心底シビレました。エクセレント!)。
ガチ仮面ライダーファンを公言する伊藤氏にはシンパシー感じまくりですが、それは置いても、そのカリスマ性の高さと迫力はエスという男に実存感を与え、かつ映画自体の格(プライス)を上げるに十二分な人選だったと思います。
そして、大興奮の仮面ライダー揃い組。
TV本編でも、この5人の揃い組はありません。特にあのサウザー(コイツがそもそもの原因なのですが)がこの中に入っているのがもうタマリマセン!!
欲を言えば「雷」と「亡」にも変身して欲しかったですが、本編のボリュームから
考えて、ここは致し方ないところ。
TVシリーズ最終話からの地続きである本作は、真の最終話というべき作品となっています。
「仮面ライダーゼロワン」を観ていない人でも十二分に楽しめる娯楽作品ですし、観ていた人は10倍以上楽しめてしまうのが本作の真骨頂。
『劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME』は仮面ライダーの劇場用映画として、まさに理想形の作品でした。
満足度 85点