筆者は推理小説が好きで、せっせと 読んだものです。
それで 子供の頃、出版社の こんな キャッチフレーズに惹かれた 一冊があります。
曰く ―
「私は二十歳の娘、億万長者の相続人である。
しかも 『これから私が物語る事件は、巧妙にしくまれた殺人事件です』 という言葉で始まる。
私は事件の探偵であり、証人であり、被害者であり、そのうえ犯人でもある。
いったい 私とは 何者か?
一人四役を演ずる 空前絶後の トリック !
一九六二年度 推理小説界の話題をさらった問題作。」
題名は セバスチャン・ジャプリゾ 作 『シンデレラの罠』。
2012年発行 【新訳版】
この惹句の中の 「一人四役を演ずる 空前絶後のトリック !」 というのが 泣かせるじゃありませんか(笑)
筆者は勇んで この本を買いました。
そして 読後の感想は 「よく 分からなかった」(笑)
それで後年、再読した時の感想が これ ――
「子供の頃 ” 一人四役 ” に 煽られて読んだのだけど、何だかよく理解できなかったので 『オレって こんな本、読まなかったんだ 』 って事にして、記憶を封印してしまった作品。
その後、これって 本格モノではないと 知って 再読した今、『一人四役ってこんなんです 』 と言われれば、即座に 『了解 !』 と快諾することに ヤブサカでないのは、やはり相応に オトナになったのだろう(笑)(後略)」。
そんなわけで、もうスッカリ 忘れてしまっていた一冊です。
ところが !
7月1日付け 毎日・朝刊の 「今週の本棚・なつかしい一冊」 という書評欄で、このような記事を見つけました。
「中村うさぎ・選 『シンデレラの罠』 = セバスチアン・ジャプリゾ著、平岡敦・訳」
そこでは選者と、この本の経緯が 面白おかしく語られているので、ここで 全文 ご紹介します。
なお、選者は この本の 「ネタバレ」 はしていませんが、かなり詳細に ストーリーの内容を語っています。
なので 「余計な情報は 一切抜きで、何の先入観も 持たないまま 本作を読みたい」 と思われる方は パスして くださって 結構です。
それでは 引用を始めます。
☆
私がこの 『シンデレラの罠 (わな)』 を読んだのは、それほど昔のことではない。
つい15年ほど前だ。
ミステリー好きの友人に勧められて手に取り、読み始めるや 否や たちまち引き込まれた。
大火事によって 元の顔も 指紋も 記憶も 失(な)くしたヒロインが、「自分は誰なのか ?」 という謎に直面する。
火事の現場には 二人の少女がいたという。
ひとりは大富豪の娘 ミシェル、もうひとりは 彼女の幼馴染 (おさななじ) み ドムニカ。
ひとりは 焼死体となって発見され、ひとりは 焼けただれていたものの かろうじて生き残った。
さて、自分は どちらなのだろう?
と、ここまで読んだ時に、不意に奇妙な既視感を覚えた。
私は この話を知っている !
初めて読む本なのに 確かに知っているのだ !
しかも10年や20年どころじゃない、ものすごく古い記憶だ。
でも何故、私はこの話を知ってるの ?
しばらく悶々 (もんもん) と悩んだ末に、ようやく 思い出した。
ああ、そうだ!
これ、小学生の頃に読んだ 「わたしは だれ !?」 という少女漫画だーっ !
調べてみると、1967年に「週刊マーガレット」で連載されていた作品だった。
( 筆者注記 : 作者は 丘けい子さん とのこと )
漫画では舞台が日本に変えられていて、リサ と ナナ と いう二人の少女の話になっていた。
リサ は 大金持ちの相続人、ナナ は 孤児。
生き残った自分が リサ なら大富豪、ナナ なら一文無し というわけだ。
しかも、ナナが わざと放火して リサを 殺した可能性も 浮上して来て、もし自分が ナナだとしたら 殺人犯かもしれないのだ !
当時9歳の私は 毎回 ハラハラ ドキドキしながら この漫画を読んでいた。
が、教育ママだった私の母が 漫画を禁止したせいで 最後まで読めず、結局ヒロインが リサだったのか ナナだったのかという 重大な謎が解けないまま 40年もの月日が経(た)ってしまったのである。
以来、その謎は ずっと私の記憶の奥でくすぶり続け、50歳近くになって『シンデレラの罠』に遭遇するまで埃(ほこり)をかぶって埋もれていたのであった。
それが、この本を読み始めた途端、突然、鮮烈に蘇(よみがえ)って来た。
まるで失った記憶を取り戻したヒロインのように!
ページを めくるのも もどかしく 震える指で 夢中になって物語を追った9歳の私が、40年経って初めて知る事件の真相。
それはまさに、私の人生における エポックメイキングな 読書体験であった。
漫画の方は 少女向けに簡略化されていたが、原作は もっと複雑で 伏線だらけ 罠だらけの傑作だ。
この本を、私は一生忘れることができないだろう。(作家)
☆
以上です。



