読売新聞 では 月 1 回、「 五郎 ワールド 」 と いう 記事を 連載 している。

 

これは、同紙の 特別編集委員である 橋本五郎氏が、折々の 出来事について 論評 するもので ある。

 

本日、掲載されたものは 「 歴史法廷への陳述書 」 の 題の下、2 月 8 日 に 発売される 「 安倍晋三 回顧録 」 ( 中央公論新社 ) の 紹介を している。

 

そこでは、安倍 元首相の 政治的信念や、なぜ、あのような 長期政権を 成しえたのか と いう 理由などが 述べられていて、大変 興味深い ものだった。

 

以下、記事の 全文を ご紹介する。

 

まずは、2014 年 に オバマ 米大統領が 来日した時の エピソードが 披露 される。

 

 

[ 五郎ワールド]

「 歴史法廷 」 への 陳述書 … 特別編集委員 橋本五郎

 

2014年 4月 23日、オバマ 米大統領が 来日した。

 

安倍首相 主催の夕食会は 東京 ・ 銀座の 寿司店 「 すきやばし 次郎 」 で 行われた。

 

オバマ氏は 店に 入るや いなや、いきなり 切り出した。

 

「 安倍内閣の 支持率は 60%、私の 支持率は 45%だ。

 

シンゾウ の 方が 政治的基盤が 強いのだから、TPP ( 環太平洋 経済連携 協定  ) で 譲歩して ほしい 」。

 

 ここへ 来るまで アメリカの車を 1台も 見ない。 「 輸入しろ 」 と いうのである。

 

いや、アメ車に 関税は かけていない と 反論しても、「 非関税障壁が あるから、アメ車が 走って いないんだ 」 と いう オバマ氏。

 

では 外を見ようと 安倍さんは 連れ出した。

 

 銀座の街を BMW、ベンツ、アウディ、フォルクス ワーゲン は 走っている。

 

しかし、アメ車は 走っていない。

 

ハンドルが 違うからだ。

 

アメ車は 左ハンドル の まま 売ろうと している。

 

CM も 流さず、東京モーターショー にも 出展 していない。

 

 「 そういう努力を して いただかなかったら、売れるはずが ないでしょう 」。

 

そう たたみかける 安倍さんに、オバマ氏は 沈黙するしか なかった。

 

 

安倍元首相が 銃弾に 斃 ( たお ) れてから 7 か月。

 

通算 3188 日 の 首相在任の日々を 振り返った 『 安倍晋三 回顧録 』 ( 中央公論新社 ) が 出版される。

 

 

私 と 尾山宏 読売新聞 論説 副委員長が 聞き手と なり、北村滋 前国家安全保障局長が 監修して まとめた。

 

各国首脳との 生々しい エピソードや 首相と しての 煩悶 ( はんもん ) 、孤独の決断など 政治とは 何か を 考える上で 好個の素材を 提供してくれる。

 

 回顧録の ための インタビューは 安倍さんが 首相を 辞任した直後の 20年 10月から 合計 18 回、36 時間 行われた。

 

すぐ 出版 出来なかった事情に ついては 本書の まえがき に 詳しく 触れている。

 

 私たちの 最大の関心は、なぜ 安倍政権は 戦前の 桂太郎を 抜いて 133年 の 日本憲政史上 最長の 内閣に なりえたのか と いう ことだった。

 

回顧録で 浮かび上がって くるのは、 「 戦略的 リアリスト ( 現実主義者 ) 」 に 徹した 政治家の姿 で ある。

 

政権運営に あたって 中曽根康弘 元首相からの 助言は 大きかった。

 

 「 総理大臣と いうのは 一回 弱気に なったら もう 駄目だ、自分が 正しい と 確信が ある限り、常に 間違っていないんだ と いう 信念で いけ 」

 

「 常に 前方から 強い風が 吹いてくる。

それに向かっていく と いう 信念が あって、初めて 立って いられる 」

 

 平和安全法制 など 国論を 二分する 政策に 真っ向から 挑戦 したのは その 表れである。

 

その一方で、経済界への賃上げ要請や 働き方改革、子育て支援など 内政問題では 「 タカ派 」 イメージ とは 異なる政策を 打ち出した。

 

 軍備増強や 強引な 海洋進出を 進める 中国に どう 対抗するか。

 

その要諦は 将棋と 同じで、相手に 金の駒を 取られそうに なったら 飛車や 角を 奪う 手を 打たなければ いけない。

 

中国の 強引な振る舞いを 改めさせる ためには、こちらが 国政選挙に 勝ち続け、厄介な 安倍政権は 続くぞ、と 中国に 思わせる。

 

そんな 神経戦を 繰り広げたと いうのである。

 

 

わずか 1 年で 頓挫した 第 1 次政権の 失敗から 学んだのは、政権が 揺らぐのは 自民党内の 信頼を 失う時だ と いうこと だった。

 

「 大統領は 反対党によって 倒され、( 議院 内閣制の ) 首相は 与党から倒される 」 と メイ 英首相 ( 当時 ) に 話したら、その通りだ と 言われたと いう。

 

人事でも 政策でも それを 肝に 銘じた。

 

 それにしても、野党や 一部マスコミから 立憲主義を踏みにじる政権 と して 厳しい批判を 受けながら、なぜ 6 回 の 国政選挙で 勝ち続け、最長政権 なりえたのか。

 

私は 国論を 二分する課題であっても 敢 ( あ ) えて 断行したことが 評価されたのでは ないか と 秘かに 思ってきた。

 

 安倍さんは 違った。

 

第 1 次政権で 失敗したからだ と いう。

 

首相と しての 未熟さ、経験不足、準備不足を 反省すると ともに、同じ挫折を 経験した 菅義偉氏や 麻生太郎氏、秘書官グループなどが 一体と なって 支えてくれることに なった と いうのである。

 

 インタビュー しながら 思ったのは、トランプ氏ら 世界の リーダーや 日本の 政治家に 対する 観察眼の 鋭さである。

 

小池百合子 東京都知事は トランプの 「 ジョーカー 」 だ と いうのも そうだ。

 

 「 政治家の 人生は、その 成し得た結果を 歴史という 法廷において 裁かれることで のみ、評価 されるのです 」

 

 中曽根氏の 名言である。

 

『 安倍晋三 回顧録 』 は さながら 安倍被告が 歴史 と いう名の 法廷に 提出した 陳述書 なのである。

 

〔 了 〕