本日、 7月23日。

読売新聞 朝刊に  “ 〔 参院選 2019 〕 今後の展望 識者に聞く ” という特集が載った。

 

そのリードには

 

「 参院選は、改選過半数を獲得した与党の勝利で幕を閉じた。 強固な政権基盤を維持した安倍首相は憲法改正に意欲を示す。 社会保障制度改革など 内閣が取り組むべき課題は山積している。 選挙の総括とともに 今後の展望を 識者 3 人に聞いた 」。

 

この中の 「 憲法 : 議論へ 一定の信任 」 という記事をご紹介します。

 

 

論者は 関西学院大学教授 井上武史氏。

 

 

いのうえ・たけし 専門は憲法学。 仏パリ第1大客員研究員、九州大准教授などを経て現職。 著書に 「 結社の自由の法理 」、共著に 「 憲法裁判所の比較研究 」 など。 42 歳

 

以下、全文を転載します。

 

 

 不思議な選挙だった。 争点が はっきりせず、野党の目標は、自民、公明の与党と 日本維新の会などの改憲に前向きな勢力が、憲法改正の国会発議に必要な 「 3 分 の 2 」 に達しないよう阻止することだったように見えた。

 

 結果、3 分 の 2 には届かなかったが、憲法改正に反対の民意が示されたとみるのは正しくない。 安倍首相は今回の参院選で 「 憲法を議論する政党か、議論すら しない政党や人を選ぶか、だ 」 と踏み込んだ。 与党が勝利したことで、むしろ憲法の議論を進めることに 一定の信任を得たと受け止めるべきだろう。

 

 元々、3 分 の 2 は それほど重要な数字ではない。 憲法改正は、時の与党だけで行うのではなく、なるべく多くの野党の賛同を得ることが望ましいという趣旨だ。 現行憲法には欠陥や不備がたくさんある。 3 分 の 1 の少数派が、議論すら認めない 「 拒否権 」 を持つべきではない。

 

 

 首相は自民党総裁任期が満了となる 2021 年 9 月までの約 2 年間で、憲法 9 条への自衛隊の明記など 4 項目の自民党改憲案をたたき台とした憲法論議を 本気で進めようとするだろう。

 

 最大の難関は連立与党の公明党ではないか。 事前の与党協議は難しいので、自民党案を憲法審査会に示し、維新や国民民主の両党と協議しながら議論を進め、改憲ムードを高めるのが 一番現実的だ。 改憲について議論する有識者会議を設置してもいい。 首相が、憲法裁判所設置論など 野党の意見も取り入れる包容力を示せるかどうかが カギだ。 憲法論議に関しては、数の力で押していくのは難しい。

 

 最優先されるべきは、二院制も含めた参院改革ではないかと考えている。 現行の参院選挙制度は複雑で、どんな民意が反映されたのか わからなくなっている。

 

 例えば、改選定数 1 の 「 1 人区 」 では、最多得票した人だけが当選するが、東京 ( 6 人区 ) のような複数区では 最多ではない人でも当選できる。 鳥取 ・ 島根などの 「 合区 」 ができたことで 都道府県単位という理念も薄れ、 「 特定枠 」 によって比例名簿に順位をつけない 非拘束式の比例代表の位置づけも あいまいになった。 参院を 「 地域代表 」 と憲法に位置づけるなど大きな議論をしていかないと、参院不要論が高まるだろう。

 

 首相は 9 条への自衛隊明記など、憲法改正を 1 回実現すればいいという姿勢ではなく、今後 10 年を見据えた憲法論議の 大きな道筋を示してほしい。

 

 

 野党第 1 党の立憲民主党が かつての社会党のように、改憲に反対する薄い支持層にだけ訴えているように見えるのは残念だ。自民党案に問題点があれば 指摘すればいいのであって、案すら出させないのは横暴だ。

 

 日本の憲法は 英語にすると 5000 語くらいで、諸外国と比べて大幅に分量が少ない。 法律や判例、解釈、運用などで形成された 「 裏ルール 」 で 憲法の分かりにくさを補っている。 だが、立民などが訴える立憲主義は 本来、憲法だけ読んで ルールが理解できなければ成り立たない。 野党は、立憲主義や民主主義をより深化させるという立場からも、前向きに憲法論議に向き合うべきだろう。 ( 政治部 豊川禎三 )

 

〔 了 〕