【新日本ファクトチェックセンター】
112
 

今回は前々回(その110)に引き続き、米国や世界の政治の動向について考察したい。



■やはりトランプの勢いは強い

内容的に前々回記事(その110)の続きなので、未読の人はまずそちらを参照されたい。

 



上記記事の時点でも「今のトランプは2016年の時を上回る勢いがあるのでは?」と書いたが、その後の動向(アイオワで2位だったデサンティスが撤退表明しトランプ支持に回る)を見ても「トランプ優勢」の傾向は強まるばかり、と感じる。

翔子「今後、もしトランプに多少の有罪判決が出ても、その程度ではこの勢いは止まらないかも?」



■何故今、米国でトランプがこれほど勢いを増しているのか?

メディアなどでも「トランプ VS バイデンなら、本選でもトランプの方が優勢では?」という見方が最近は主流に見える。

真琴「実際、世論調査などでも支持率はトランプの方が概ねバイデンより優位ですね」

既に「もしトラ」どころか「多分トラ」、なんてワードが日本でも飛び交うような状況で。
ざっくり言えば「米国民の約半数以上はトランプを支持している」みたいな情勢と言える。

当然だが「アンチ・トランプ」を公言しているような「ゴリゴリの米国民主党支持者達」は、この(彼らにとって悪夢のような)現状を受け入れ難いようで、「反トランプ」のデモや集会なども盛んに行われている模様。

で、そうした「熱狂的な反トランプ」の人達の主張?を聞いてみると、旧態依然の「トランプなんかに騙される馬鹿なQアノン達がこんなに多いのは狂っている!」「米国の民度がこれほど低下しているとは悲劇的だ!」みたいな論調が大半である。

彼らに「自分達の陣営(民主党)の主張や政策に誤りや反省点があったのでは?」という真摯な「自己反省」の姿勢はほぼ1ミリもなく、ただひたすら「敵対陣営の支持者を低学歴だの差別主義者だのと露骨に見下して非難・罵倒する」ばかり。他責思考全開。

これはアカンなぁ、と傍から見ているワイはその状況を危惧している。



■「トランプはまだ化けの皮が剥がれていないだけ」的な主張は無理がある

反トランプ派の人達の主張には「トランプはまだ化けの皮が剥がれていないだけ」的な主張もしばしば散見される。「だからトランプの本性を知らずに皆騙されているのだ!」みたいな。

しかしそれは無理筋の主張と感じる。

確かに【「まだ化けの皮が剥がれていないだけ」のポピュリスト的な政治家が、一時的には高人気で支持を集めるが、その者が行政のトップや首長などについたら「口先だけ」なのがバレて、あっという間に化けの皮が剥がれて支持率急低下】みたいなケースは実際結構ある。

日本で言えば、たとえば舛添要一。「朝生」などで政治学者として名を馳せ、一時期は「首相にしたい人No.1」などと持て囃され政治家として高い人気があった。しかし都知事という「地方行政のトップ」についたら2年程度であっさり化けの皮が剥がれた。

あるいは鳩山由紀夫。オバマ大統領の頃、米国側から「ルーピー」と名指しで呼ばれていたのは有名で。

歴代“ポンコツ総理”ランキング

 


僅か9ヶ月足らずの短い在任期間であったにも関わらず、「“ポンコツ総理”ランキング」などでは未だにトップに君臨しているような「ポンコツ総理の代表格」的な存在。

しかし総理になる前の野党時代は、育ちの良さを感じさせる「ハト派」のソフトイメージと朝日など左派メディアの猛プッシュで、結構な人気政治家であった訳で。実際、首相就任直後の鳩山は非常に高支持率であって、その後に物凄い勢いで支持率が急低下していく様は「下り最速」などと揶揄されたほど。


舛添・鳩山の両名とも今現在は「政治家」としては全く支持されていない不人気ぶり。再登板を望む有権者も「ほぼ皆無」に近いだろう。この二人は「口先だけのハリボテ政治家だった」ということ。


それと比べてトランプはどうか?

「トランプはポピュリスト」という批判には一定の説得力はあろう。その点はワイも認めている。
しかし彼は、「米国大統領」という要職中の要職を、1期4年きっちり務めている。
当然だがマスコミや有権者の大注目を4年間浴び続けていた訳で、「化けの皮が剥がれる」には十分な期間と職責が課せられていた、と言える。

にも関わらず、大統領職を退いた後も支持を集め続け、今また「米国大統領候補の最有力」として表舞台への復帰が現実味を帯びている。舛添・鳩山らとはその点は全く違う。


無論、一部の「熱狂的なトランプ支持者」には、ワイも呆れるようなレベルで「トランプの言動を何でも盲目的に褒めちぎり崇拝する」ような極端なのが実際いるのは否定しない。

しかし、そんな「狂信者」みたいなのが「米国民の半数に達してしまった」というストーリーには無理がある。それは明らかに有権者を馬鹿にし過ぎた(勘違いエリート思想みたいな)物の見方である。

ワイの見る限り、「盲目的なトランプ信者」なんて多く見ても米国全体の2割もいないだろう。

残りの3割以上は、「トランプがどういう政治家か」の本性を概ね理解し、彼の人格的or政策的欠点も十二分に把握した上で、迷った末に(消去法的に)「トランプ支持」を選択している、と考えるべきである。

翔子「トランプって、人格的or政策的にそんなに立派な政治家なのでしょうか?」

問題はそこよ。

トランプは「良識派」が眉をひそめるような「暴言・失言」は今も変わらずそれなりに多い。
にも関わらず、「それでトランプの支持率が下がったり」という傾向がもはやほとんど見られないのは何故か?

有権者が盲目的なトランプ信者だから?

否。

多くの有権者は、「トランプはそういう人物」だと既に十分に知っていて、「それ(暴言・失言)は既に織込み済み」の要素だから今更支持率に影響がないだけ。それが実態に近いと考える。

また、対比されるバイデンがトランプより酷い水準の失言(ボケ)をかましまくっている、という理由もあるだろう。


中道を自認する第三者のワイから見ても、「トランプが人格的or政策的に素晴らしい政治家だ!」とはあまり思われない。

にもかかわらず、(消去法的に)「トランプ支持」を選択する有権者が米国でかなり多いという事実。

こうした状況証拠?から導きだされる結論は、以下になる。

【別にトランプが立派なのではない。米国の反トランプ勢力(民主党)があまりにもダメ過ぎるからこんな支持率になっているのだ】と。

この現実?を直視せずに、民主党陣営(支持者達含む)が、勘違いの上から目線(自分達への反省はゼロ)でトランプ支持者を露骨に見下すような言動ばかりを取り続けるのは、米国の分断をいたずらに煽るだけなのは勿論として、中道の有権者を民主党から遠ざける要素にもなるだろう。

真琴「そんな傲慢な姿勢で責任転嫁ばかりやっているから民主党は有権者からの支持が低下しているのだ、と」



■具体的には

有権者がバイデン政権(民主党)に対して持っている不満の内容を具体的に挙げれば、「不法移民問題」及び「治安問題」、そして「物価高問題」だろう。

特に前2者の要素については「民主党の政策は失敗だった」と考えている有権者が多い模様。


【解説】移民問題で揺れる欧米

 


言うまでもないが米国は元々「移民の国」である。故に、伝統的には「移民に寛容」な傾向が強かった国であって。

しかし、今や世論調査でも「移民の数は減るべき」と答える人が、「移民の数は増えるべき」と答える人の1.5倍以上もいるという事実。

 

112_02

はっきり言えば、米国民主党の「空想的・非現実的な(極度に寛容過ぎる)移民政策」は失敗だった、是正が必要だ、と多くの米国民が考えている状況であろう。


これは実は欧州もほぼ同じ状況で、EUは全体でも個々の国レベルでも「移民受け入れ厳格化(移民制限)」の方向へのシフトは顕著な傾向と言える。

たとえば英国のスナク首相。決して「極右」だの「排外主義者」だのといった類の人物ではなく、現実的な判断のできる中道のまともな政治家だとワイは評価しているが、その彼も移民問題については「移民受け入れ厳格化(移民制限)」の方向へはっきり舵を切っている。他の欧米諸国も、多かれ少なかれ似たような状況である。

無論、原理主義的な極左の進歩派は今でも「不当な移民制限を今すぐやめよ!(無条件受け入れをしろ!)」と言い続けているが、もはやそうした主張が「主流」となれるような国は欧米先進国にも「ほぼ何処にもない」ような情勢になりつつあるだろう。

2015年にドイツのメルケル首相が「難民(移民)を人数制限なしで全部受け入れる!」と表明して多くの有権者から大喝采・絶賛を浴びた頃とは、既に欧米での移民問題の情勢・民意はかなり大きく変化している、と見るべきだろう。

こうした「環境や民意の変化」を直視して、欧米のリベラル勢力も変わらなければならないのではないだろうか?

翔子「と言われても、具体的にはあまりピンと来ませんが」

うむ。

その答えの参考になりそうな案件として。
欧米外でワイが今注目している政治家が一人いる。

真琴「それは誰でしょうか?」

アルゼンチンの新大統領、ハビエル・ミレイその人である。



■アルゼンチンのミレイ大統領

「ダボス会議」というのをご存知だろうか?

翔子「世界経済フォーラム年次総会だ、というのは聞いたことがありますが」

うむ。まあ、世界中の政界や経済界のお偉いさん達が一堂に会して、各種テーマについて話し合う会議である。

その今年のダボス会議が1月に開催されて。そこでのミレイ大統領の演説が、今、世界的に密かに評判になっている。

はっきり言うが、ダボス会議の錚々たるメンバー(超大物がズラリ)の中では、ミレイ大統領はやや「場違い」な感すらある、無名に近い(小物扱い?の)存在であった。

にもかかわらず、このダボス会議の演説の中では、ミレイの演説が演説動画の再生数でダントツの1位となっているらしい。

ある種「今年のダボス会議の主役はミレイ大統領だった」という見方すらあるくらいで。

真琴「そんなに? 内容はどんな演説だったのでしょうか?

以下のサイトに文字起こしのテキストも日本語字幕つき動画もあるので、参照されたい。

ダボス会議で西側諸国の「社会主義化」を警告【ミレイ大統領演説全文】

 


ざっくり要約すると、【リバタリアンのミレイ大統領が、西側諸国の「社会主義化」を警告し、本来のリベラリズム(自由主義)への回帰の必要性を堂々と訴えた】みたいな演説である。


ミレイ大統領はまだ就任から日が浅く、実績を評価できる段階にはない。よって彼自身へのワイの評価はまだ保留である。
ただ、政策面では幾つか「支持できない」モノが散見されるのは事実。やや極端過ぎる一部の主張なども。


しかしそんなワイから見ても、この演説自体は聴く価値のある「名演説」だと感じた。

なるほど、確かにそのへんの「経済界の大物()」の退屈な演説などより人気が出るのも頷ける。
実際、アルゼンチンではミレイ大統領は今非常に高い支持率を得ている模様。



■リベラルとリバタリアン

翔子「そもそもリバタリアンというのがよくわかっていないのですが」

うむ。

まず、「リベラリズム」とは「自由主義」のこと。「社会主義」や「共産主義」と異なり「市場経済」を重視するのが特徴で。「社会主義」の対義語的な側面も多分に有していた。

これは、「生産手段の社会的所有」を特徴とし「大きな政府」を標榜する「社会主義」に対し、「市場経済」「神の見えざる手」を重視し「小さな政府」を標榜する「自由主義(リベラリズム)」という対比でもあった。

中国の習近平が今主張している「共同富裕」も、元々は毛沢東の時代、文化大革命の時代の共産主義のスローガンであり、「大きな政府」の考え方に準じている。

真琴「つまり社会・共産主義=大きな政府、自由主義(リベラリズム)=小さな政府、というのが元々の構図だったと」

うむ。

ところが冷戦時代が終わり、「社会主義や共産主義の失敗」が(大半の国では)誰の目にも明らかになった頃。

自由主義(リベラリズム)の定義が半ば逆転したような展開になって。「リベラリズム」を自称しながら「大きな政府」を標榜するような勢力が欧米社会を席巻していくことになる。

「社会民主主義」や「社会自由主義」という名称で、中身はかつての社会主義思想に近いような「大きな政府」思考の政治勢力が「我こそリベラル!」と自称し始めて。

そして「本来の自由主義」に近い「小さな政府」志向のリベラリストに対し「お前らはリベラルではない!」と排斥する動きが強くなり、「小さな政府志向のリベラリスト」に対して新たにつけられた呼称が「リバタリアン」である。

翔子「軒を貸して母屋を取られる、みたいな?」

うむ。そしてこうした動きが「福祉重視」「人権重視」というお題目でひたすら正当化されてきたのがここ数十年の世界の動向であった。

そういう意味では「リベラリズム」「リベラル」という概念は時代と共にかなりの変遷があった、と言えるだろう。

そして国際的には「リバタリアン」は、ここ数十年世界の中でマイナー勢力で有り続けてきた訳で。
たとえば日本でもかつては「みんなの党」などの「小さな政府」を標榜するリバタリアン的な政党が存在していた時期もあるのだが、今は与党から野党までほぼ全て「大きな政府」志向の政党と言える。

真琴「今の日本に小さな政府志向の政党が一つもない、というのもちょっとバランスが悪いような?」

ワイもそう思う。

しかしそれは日本だけでなく世界的な傾向であった訳だ。

そんな中で、今、世界でも珍しい「バリバリのリバタリアン大統領」がアルゼンチンに誕生し、絶大な人気で国民からの高い支持率を誇り、ダボス会議の演説で世界的にも(一部の?)注目を集めている。

あるいはこれが「国際的な大きなうねり」に繋がるような展開もゼロではないのかもしれん。

ミレイ自身を支持するか否かは別にして、彼の主張には「リベラルも変わらなきゃ」という気づきを与えてくれるきっかけとして傾聴に値する価値は十分にあるかも。

そういう意味で、ミレイ大統領の動向は当面「要チェックや!」と考えている次第である。