• 騎士・シュプールの物語ー漫画「片田舎のおっさん、剣聖になる 6」


 漫画「片田舎のおっさん、剣聖になる」、「小説の漫画化」という点で「一つの理想像である」ってのは、以前同小説&漫画を紹介した記事(*1)でも書いたところ。
 その「理想像」とした理由の一つは、小説に於けるキャラクター・登場人物を更に掘り下げ、小説には無いエピソードを追加・付加する事で、より深みや厚みのある人物像を造形している所にある、とした。また、原作とはアレコレ変えることでも人物像を深めている事も指摘した。ヘタすると「原作改変/改悪」ともなりかねないのだが、本漫画化は十分な許容範囲に納まっている、と思う(*2)。
 今回は、その延長上であり、漫画に登場する「原作(小説)には無い」乃至「原作(小説)ではモブキャラ扱いで名前すら不明乃至無いキャラ」が「受肉」し、具現化され、実質「参入参戦する新キャラ/追加キャラ」となっており、この「新キャラ」が為に、より一層この「話」=「片田舎のおっさん、剣聖となる」は面白く、興味深く、より深く心の琴線に触れている、って話である。
 
 って訳で、本記事も先行記事と同様に、「ネタばらしを盛大に含み、作品紹介では無い(適さない)」と、しようかとも考えたのだが・・・それは先回もやったな。今回はネタばらしは抑えて、先述の「小説にはない/登場せず、漫画で追加された”新キャラ”」を説明することで、本作の魅力並びに「本作が、如何に小説の漫画化として理想的であるか」を広く一般大衆に説明し、「説得」する記事としよう。

 早い話が、「ネタばらしは極限化/極小化」して、「より広い範囲の人に、”片田舎のおっさん、剣聖となる”に興味を持って貰い、読んでもらおう」という企画であり、試みである。
 
 Now We START. by名無し@映画「夕陽のガンマン」


 

  • <注記>
  • (*1) ベリル・ガーデナント氏の研究 「片田舎のおっさん、剣聖になる」
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  • https://ameblo.jp/zero21tiger/entry-12809400492.html?frm=theme 
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  • (*2) 「改変の結果が、改善向上になっている」と考えるから、ってのは、大きいが。 


 

  • (1)騎士・シュプール・アイレンテール


 タイトルにも取ったシュプールは、原作の小説には登場しない、「漫画化に伴う新/追加・キャラ」であり、この漫画の中では悪役である。それも、ラスボスではないがそれに近い「最強の敵」として登場する。
 何しろ、魔剣・ゼノ・グレイブルを装備したおっさん=「片田舎の剣聖」と、奇蹟を使いながらとは言え真っ当に切り結んでしまうのだから、「並みでは無い」どころではない。悪役=敵役であるにも関わらず、漫画第6巻の表紙を飾ってしまうのは、伊達ではないのである(*1)。
 先述の通り「漫画オリジナル」で原作(小説)には居ない「新キャラ」であるが、その登場は存外なくらいに早い。ミュイの姉の行方を求めて「宵闇のアジト」を粉砕した後(*2)、その後始末や捜索続行を騎士団や魔法師団に任せて、一人我が身の不甲斐なさを歎いていた酒場で、他の酔っ払いに絡まれていたのが、飲んだくれた状態のシュプールだった。
 その「絡み」が遂におっさんへ物理的影響を及ぼすに至って、おっさんが介入。その際に互いの剣技・剣術理論の高さを知って(*3)、酔っ払いを共同攻撃で撃沈した後、意気投合。描写は少ないが、どうもしこたま飲んだようだ。
 シュプールはシュプールで「元は平民だったが、認められて騎士になった」なんて昔話(*4)もしているから、初対面ながら相当に「胸襟を開いた関係」であった、と言えよう。
 
 お互いの、立場を知るまでは。

 紆余曲折あって、真剣で切り結ぶ敵対関係となりながら、シュプールらは一度は離脱に成功し、馬車で逃亡に移った、のが前巻まで。今・第6巻は、そこから、おっさんの方にも「思わぬ援軍」が現れて、騎馬による追跡が追いついた、って所から。 
 そこから一対一×三組の剣戟に入るのだが、「フィッセルの、最高の師匠二人に師事した者の意地」とか、「ロバリーの、そっち側/こっち側理論(*5)」とか、興味深いネタはすっ飛ばして、本番本命の「おっさんvsシュプール」に焦点を絞るとしよう。

 覆面で顔を隠していたシュプールだが、どうやら切り結ぶ内に「酒場で一緒に呑んだ仲」と気づいたらしいおっさん・ベリル・ガーデナントの問いかけ、「どうしてあんな男についている?それほどの腕があって。」に対し、シュプールは、その経緯を回想する・・・これがほぼ丸々一話分の「回想」で、しかも原作(小説)には無い「漫画化の追加部分」であり、「本第6巻の白眉」とも言える、部分である【強く断言】。

 

  • <注記>
  • (*1) 因みに、未だ6巻であるから、「表紙にする登場人物に困った」訳でも無い。主人公たるおっさん=ベリル・ガーデナント氏なんざぁ、1巻でも2巻でも表紙を務めている。 
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  • (*2) って、読んでいない人には何のことか判らないだろうが、勘弁して貰おう。「中味は、読んでのお楽しみ」だ。 
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  • (*3) どうやって「知った」かは、読んでのお楽しみ。 
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  • (*4) これって、後に明らかになるシュプールの過去からすると、相当に「深い」話で、初対面の相手にいきなり話すようなネタではない。
  •  それだけ「意気投合した」現れ、と考えられる。 
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  • (*5) と、「そっち側」に軽やかに駆けていくクルニ・・・・と、「そっち側」を量産している(らしい)「流石は片田舎の剣聖」おっさん、とか。 


 

  • (2)お姫様・ラフィ・アイレンテール

 「本第6巻の白眉」である「シュプールの回想シーン」では在るが、本稿はあくまでも「片田舎のおっさん、剣聖になる」の紹介であり、先述の通り「ネタばらしは極限」したい。未だ本作を読まない人に対する「ネタばらし」は、本作に対する侮辱で在るばかりで無く、未だ本作を読んでいない読書諸兄から本作を読む楽しみを、奪う、乃至大いに減じるモノだから、だ。

 であるならば、その回想シーンの中心であり肝であり核心(且つ、漫画化のみ登場の"新キャラ")であるラフィ・アイレンテール嬢についての情報も、特に肝心なところは隠匿せざるを得ない。

 とは言え、本第6巻の「メインヒロイン」とも言うべき「ラフィ様」に触れないでは、本稿は成立すまい。

 外観で言うと、頭頂部に「お団子」をまとめたロングストレートの髪型。目と口の大きさが、可愛さとバイタリティを象徴している様だ。とある領主の娘(恐らくは、一人娘)だが、その父親=領主も「一度決めたら聞かない」と呆れられ、諦められている、らしい。

 何しろ、シュプールの剣の才を見出し、スカウトし、「剣技の師匠」とは言い難いがヒントぐらいは出しているようだし、「剣の楽しさ」を教えたと言う点では、「立派な師匠」とも言い得そうだ。
 その上、シュプールにとっては命の恩人(それも、二回も・・・)にして、(少なくとも)婚約者であり、(ひょっとすると)伴侶・妻だ。そりゃ、大事な人、だわなぁ。

 そんな「大事な人の死」が、シュプールを「騎士狩り」にし、「あんな男につく」契機となった事が、この回想シーンでは語られる。

 ま、詳細は、「読んでのお楽しみ」だが。

 

  • (3)「ダラン・・・からの、ドバッ!」

 「おっさん」ことベリル・ガーデナントと、シュプールの死闘を描く第28話「おっさん、決着!」は、本第6巻の「クライマックス」と言い得よう。各自の「未来予想図」をハッチング背景のコマに描く手法で、互いの仕掛けや、技の掛け合い、腹の読み合いを表現し、迫力と緊張感溢れる「斬り合い」を表現している・・・これは、実際に読まないと判らないな。
 「未来予測」と「現実」とをカットバックでコマ割り静止画像で見せる(*1)「漫画」という表現形態/媒体の「凄みと深さ」を見せられる思いだった・・・・まあ、私(ZERO)が漫画やコミックに精通している訳ではない事は、お断りしないといけないが。

 これが初陣となる魔剣・ゼノ・グレイブル対「奇跡を込めた刺突剣」の死闘と決着、もさることながら、その過程・プロセスで、微かに笑みを浮かべる「おっさん」ベリル・ガーデナントと、それに気づいて、「ああ、楽しいな」と同意するシュプール、って「あっち側」同士の「やり取り」も、来るモノがある。が・・・

 仮面も防具も外して切り結ぶ二人を、ピクニックバスケット(*2)傍らに応援するラフィって「一枚絵」(恐らくは、イヤ、確実に、シュプールの幻想)も、来るモノがあるぞ。
 
 流石に、泣きはしないが(*3)。

  • <注記>
  • (*1) 「しか出来ない」訳でもあるが。 
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  • (*2) っていうのだろうか。直径50cm程の藤編み駕籠のバスケットで、仲にサンドイッチとかオープンサンドとか入ってそうなヤツ。ナプキンらしい布がかかっているので中味は割らない。隣の瓶は、ワインかなぁ。 
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  • (*3) 考えてみると、案外、漫画では泣かんな。「一読必泣の小説」も「一見必泣の映画」も、心当たりはあるが、「一読必泣の漫画」は、トンと覚えが無い。 


 

  • (4)「真に戦う者同士は、真の敵同士ではなく、友達だ。」ーマサイ族の諺( だったと思う。松本零士の教え、でもある。 )ー

「真に戦う者同士は、真の敵同士ではなく、友達だ。」ーマサイ族の諺(*1)

 二人の「決着」を以て、本第6巻は終了する(*2)・・・アレコレ後始末は残っているので、完了はしない。
 
 でまあ、物語であるから、主人公であるおっさん=ベリル・ガーデナントが「負けて殺されてお終い」って事もない。これも、ネタバレではあるまい。
 
 タダ、「一応の大団円」を迎えるには、未だもう1アクション2アクションあり、それは次巻のお楽しみでもあれば、これまた「原作の小説にはない、漫画化の追加部分」であり、「小説の漫画化の、一つの理想像」の一環でもある。イヤ、確かにストーリーに厚みと説得力を増している、が故に。

 ヒントは、「ミュイは、ミュイなりに、頑張っている。(*3)」という所。
 ミュイってのが誰で、何をする者か、ってのは、読んでのお楽しみだ。そう言えば、原作の小説では、主人公・ベリル・ガーデナントの・・・・オッと、ネタバレ禁止だな。

 以前にも書いたが、やはり「作品紹介」ってのは難しい。「ネタバレとならない範囲」でないと、読者の「読む楽しみ」を奪ってしまうが、一方でその読者に「興味を持ち、読んでもらいたい」からこその作品紹介だ。

 故に、斯様な歯切れも悪ければ、「原作や漫画を読んでいない人には、何を言っているのか判らない」であろう文書ともなる。ハッキリ言って、ある種の「駄文」であり、「駄文」とならざるを得ない。
 
 とは言うものの、「本稿が、何を言っているのか判る」為だけでも、漫画「片田舎のおっさん、剣聖となる」(乃至、原作の小説)は読む価値がある、と断言してしまおう。

 そう言えば、「剣聖の定義」が本第6巻の中で語られるのだが・・・・これって、既に「片田舎の剣聖」って異名を持つ(が、本第6巻で語られる「剣聖」の定義には、当てはまらなそうである。)おっさん=ベリル・ガーデナントの、今後=「剣聖へと至る道」を、ひょっとして、示唆しているのかな?

 だとしたら・・・ラフィ様(*4)、スゲぇ。
 

  • <注記>
  • (*1) だったと思う。松本零士の教え、でもある。 
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  • (*2) って事は、目次の各話タイトルから容易に想像できるから、「ネタバレ」ではない・・・ことにする。 
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  • (*3) と、シュプールの密かな支援、か。 
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  • (*4) 本当に魅力的なキャラクターで、そりゃ、シュプールでも惚れる訳だわ。
  •  「ネタばらしあり」なら、「ラフィ様」だけで、一本記事が書けそうなぐらいだ。