気がつくとそこは、保健室のベッドだった。
俺の隣には先ほど少女が座っていた。
「あ、気がつきましたね」
「名前……確か山城楓さん、だっけ?なんで君がここに?」
「先生に言って、ここにいさせてもらいました。それと古鷹さん、私のことはシデン、と読んでくれて構いませんよ?」
シデン……間違いない。俺の夢の中に出てきた少女の名前だ。
「あれは確か夢の中の話でしょう?なんであなたがここにいるのです?」
「いえ、私とあなたが同じ夢を見ていた。それだけのことです。例えば、あなたの好物はポークビーンズでしたね?」
「お、おう」
「やっぱり!父に頼んであなたの通っている学校を探してもらったら、ここだったんですもの!急いで転校しました」
「僕のために転校だなんて……勿体無い」
「いえ、いいんです。なぜなら私は……」
そういうと、山城さんは俺に近づいてきた。
そして耳元で「あなたが好きだからです」と、囁いた。
その頃教室では大騒ぎになっていた。
どうやら保健室に盗聴器が付けられていたらしく、俺たちの会話はだだ漏れだった。
「な、な、古鷹が告白された!?」
「しかも超絶美人の山城さんに!?」
「くそっ!羨ましい!」
この混乱は、男子だけではなかった。
「陸奥君が?あの陸奥君が?」
「そんは……ずっと非リアだって約束したのに!」
「裏切り者!」
こんなに荒れているとは露知らず、落ち着いた僕は教室に戻っていった。
するとそこには、先生さえ手が出せないほどの怒りに満ちたクラスメイトの姿があった。
「えっ!?何!?」
「シラを切るつもりか陸奥古鷹!」
「なぜにフルネーム!?」
「そんなことはどうでもいい!羨ましい!」
「はっ!まさかお前ら聞いていたのか!?」
「あぁ、切田の盗聴器でな!」
「くそっ、あの変態め!」
「違う違う!僕は盗聴器を持っていただけで……」
「問答無用!切田、後で脳髄撃ち抜いてやる!」
「そんなことはどうでもいい!異端審問会、規定28条、違反者は拷問!総員、奴の確保にかかれ!」
男子ばかりでなくなぜか女子まで俺のことを捕まえに来る!ヤバい、殺される!
「逃げよう、山城さん!」
「え?わたしも?」
「元はと言えばあなたが原因でしょう!?」
「えぇ、まぁ確かに」
「ならあなたも何をされるかわかりませんよ!?早く逃げましょう!」
「ではアレですね。出でよベリアル!生えよ片翼!汝、陸奥古鷹に元の姿を!」
信じられないことが起こった。あの世界のシデン、つまり山城さんが僕をあっちの世界の姿にしたのだ。つまり僕は地獄の大公爵ベリアル。彼女は大陸一の魔法使いシデン。
あの世界でのコンビが、現世でも蘇った。
「は!?古鷹!?何やってんのあんた!」
「諸事情あり!」
俺は山城さんを抱きかかえると、窓から大空に飛び出した。クラスメイトどころか、他のクラスの輩までこちらを見ている。
そりゃそうだろう、悪魔の姿をした問題児が、美少女を連れて空を飛んでいるんだ。
大騒ぎになるのは必須だ。
「まったく、何てことをしてくれるんだよシデン」
「あ!やっとその名前を呼んでくれましたね?嬉しいです!」
「はいはい。そんなことより、お前なんでこの世界で魔法が使えてんの?」
「私にもわかりませんが、あの戦いが終わってからも、魔法が使えるんです」
「へーぇ。そりゃよかったな」
「これでまたあの凛々しい姿を見れますね、ベリアルさん」
「そんなに凛々しくもないと思うが」
「良いんですよ!私が見ているのですから」
「全くお前は見境もなくこんな甘い言葉をかけてきやがって。悪いやつだ」
「エヘヘ。そんなことよりベリアルさん、一刻も早く戦闘準備をしないと!もう敵はすぐそこに迫っていますよ?」
「は?現世でも敵がいるわけないだろう?何を言っているんだ」
「イタカ、といえばわかるでしょう?」
「……マジか?」
「マジです」
イタカ。あの世界でも、こちらの世界でも、脅威となっている存在。あちらの世界では化け物の親分だったし、こちらの世界では反社会的な思考の武装集団。できればやり会いたくない相手だ。
「わかったよ……やればいいんだろ?やれば」
「えぇ。頑張りましょう!」
「お前は本当に、楽観的だよなぁ」
俺は地獄の大公爵。でも同時に人間の平和を願う堕天使でもあった。
この姿のまま郊外に出たら大変なことになりそうだ。仕方ない、教室に戻るとするか。
「ベリアルさん、またキスします?」
「ちょっ、それ言うな!俺にとっては禁句なんだからな!」
「冗談です」
「なっ……」
「引っかかったー」
「うるせぇ!俺らは恋人でもないんだから、あんまりベタベタするな!」
「えー、酷い。私はあなたを愛していているのに!」
「人前では絶対にやるなよ?」
「なら人がいなければいいんですね?」
「ーっ!」
「わかりましたー。人前ではしません」
「……そうしてもらえると助かる」
「ほら、見えてきましたよ?私たちの教室が」
俺たちの眼下には、馬鹿広い校庭と校舎がある。一番古い校舎の屋上を目指して、俺は急降下を始めた。
イタカとの戦いが改めて始まることに恐怖を抱きながらも、何とかしてシデンを守らなければならないという謎の義務感を感じながら、俺はシデンをつれて屋上に降り立った。