「まきもと」さんは、おととしの「アイ・アム まきもと」という日本映画の主人公。とある地方都市の市役所に勤務する、実直な中年職員。彼は、人知れず亡くなった人々の葬儀に立ち会う<おみおくり係>が仕事で、孤独死した人の近親者や、かつての仕事仲間の居所を探し求めて奔走する。

                   

 

 各自治体で実際に業務に当たっている「まきもと」さんは、心温まる映画のようなわけにはいかない、さぞ苦労が多いことだろう。NHKが、遺体の引き取り手が見つからない問題について取り上げていた。

 

 親族がいないか、火葬を行う親族が見つからない遺体が増加しており、自治体の負担が増大しているとのこと。札幌市では2023年度、 141人が「引き取り手がない」として火葬されているという。【全国調査】火葬後に親族現れ苦情…引き取り手のない遺体増加 トラブル5年余で少なくとも14件 アンケート | NHK | 厚生労働省

知らない間に火葬された “あふれる遺体”相次ぐトラブルの実態 - クローズアップ現代 - NHK

 

 現在、親族調査の範囲や火葬のタイミングに関する国の統一的なルールがなく、多くの自治体が国によるルールの整備を求めているということで、厚生労働省は今年度、この問題の実態調査を行い、適切な対策を検討する予定とのことだった。 

引き取り手のない遺体のトラブル“実態調査し対策検討”厚労相 | NHK | 厚生労働省

 

 親族をどこまで調べ、いつ火葬するかそのつど判断するうえで、自治体で独自に定めたルールやマニュアルが「ある」と答えたのは(調査した109のうち)38自治体で34%あまりだったというから、すぐに、国が国がというのは自治体としてどうかと思ったりもしてしまうが、事はそう単純ではないということなんだろう。

 

 映画「アイ・アム まきもと」には、「おみおくりの作法」という邦題がついたオリジナルがあって、10年ほど前にイギリス/イタリア合作?で製作され、主人公はロンドンの公務員だった。遺体の引き取り手が見つからない問題は、日本国内に限らない。

 

 その「おみおくりの作法」の原題は「Still Life」で、辞書には「画材の、静物。また、静物画」とあったが、タイトルにした意味がピンとこなかった。静物画が「果物や花、またボウルやガラス製品など、これらと質感が対照的な物体を典型的に含む物体の配置を描いた絵画または描画」ならば、映画は、主人公の地味で誠実な仕事ぶりとささやかな人生の、周囲の人たちとの対照ということだろうか。

 

 “遺体の引き取り手が見つからない問題”で、火葬に関する自治体の公費負担が年々増加している現状では、誠心誠意取り組む「まきもと」さんのような仕事ぶりは、望むべくもないんだろうか。ほのぼのとした話を期待するわけではない。せめてトラブルのない“おみおくり”で完結してほしい、と思うのだ。