この度、女子プロレスラーの木村花という二十二歳の若い女の子が
出演したテレビ番組での言動を切掛けに、
多数の視聴者から
メールによる誹謗中傷の嵐のような攻撃を連日執拗に受け、
孤独の中で自ら命を絶ってしまったという。
この報道があった後に、
連日、マスコミは、テレビのワイドショーなどの特集で、
心なき、誹謗中傷が、一人の女の子の命を奪ったとして、
これが現代社会の病理であり、
同じ恐怖にさらされているタレントは多いのだと訴えている。
確かに、その通りだ。
匿名で姿を現さず、人を誹謗中傷する者は卑劣だ。
そして、
そういうことをしてはいけないと訴える今のマスコミは
社会正義を訴えていると言ってもよい。
しかし、連日、
その社会正義を訴えているマスコミを見ていて、
ムラムラと甦った怒りがある。
それは、
平成二十一年(二〇〇九年)十月の中川昭一君の死だ。
中川さんは、
彼が拉致議連会長、私が幹事長で、
共に拉致被害者救出の為に力を合わせた盟友だった。
同年二月、
G7でイタリアのローマに滞在していた中川さんは、
記者会見の席で、机の上のコップに手を伸ばすとき、
一瞬(2~3秒)、酩酊しているような様子に見えた。
マスコミは、
その数秒の仕草を繰り返し繰り返し連続して放映して、
中川さんが、
記者会見の始まりから終わりまで酩酊していたように伝えた。
また、その記者会見の前に、
バチカン美術館を訪問した中川さんが、
有名な彫刻を触ろうとしてそれに近づき、
警報ブザーが美術館に鳴り響いたとマスコミは繰り返し伝えた。
私は、その時、直ちに、
バチカンに永く勤務して最近帰国した親しいカトリックの神父に、
「バチカン美術館は展示品の廻りに警報器を設置しているのか」
と尋ねた。
「バチカン美術館に警報器はない」
という答えが即座に返ってきた。
しかし、マスコミは、
中川さんのローマにおける酩酊記者会見と
バチカン美術館での酩酊行動(虚偽)を伝え続けた。
そして、中川さんは、
その誹謗中傷の洪水のなかで選挙を戦い落選し、
十月三日に亡くなった。
その訃報に接した時、
私は、二月から十月までのマスコミの執拗なる報道を振り返り、
かつて読んだ
ガルシア・マルケス(ノーベル賞受賞者)の小説の題名、
「予告された殺人の記録」
を思い起こした。
二月から始まり十月の中川さんの死で終わるマスコミの報道には、
テレビ画面で、
嬉しそうに中川さんを嘲笑するキャスターや、
「死ね」と叫ぶキャスターがいた。
これは、
暮夜一人でこちょこちょと繰り返される
本人だけに向けられたメールによる誹謗中傷とは規模が違う。
中川さんを取り囲む、
全世間、全日本、全世界に送られる誹謗中傷である。
まさに、これは
中川さんを死に至らしめた
「予告された殺人の記録」
であった。
マスコミで生きる者達よ。
自省という言葉を知れ。
西村眞悟FBより。