【衝撃事件の核心】
竹30本伐採の「怪事件」 〝犯人〟の正体は意外にも…動機は「秘密基地作り」
ある日、竹30本が伐採されるというナゾの事件の犯人は意外にも…
大阪市の鶴見緑地公園で1月下旬、竹30本が何者かに伐採される被害があった。市が発表し、警察が「犯人捜し」をする事態にまで発展したが、地元の小学4~6年生6人が〝自供〟するという驚きの結末で幕を閉じた。理由は単なるいたずらかと思いきや、児童たちが口にしたのは「秘密基地作り」。公園関係者も「今どきそんな子供がいたなんて」とほほえましい表情で語る。子供時代、大人が知らない自分たちだけの秘密基地にあこがれた人も少なくないはず。ただ、近年は「危険だから」と子供たちだけで外で遊ばせない親も多く、緑も少ない都心部ではなおさら秘密基地は縁遠い話となった。子供にとって本当に大切なことは何か。大人たちも思わず考えさせられる騒動になった。(桑村朋)
白昼堂々「ギコギコ…」
「鶴見緑地内の竹の伐採被害について」
大阪市は1月26日、見慣れない報道資料を発表した。同市鶴見区の鶴見緑地公園内の「花の谷」にある竹林で25日、計約230本ある竹のうち30本が伐採されるという何とも奇妙な被害があったというのだ。
市によると、警備員が25日午後6時50分ごろに周辺を巡回し、被害を確認した。午後1時40分ごろの巡回では異常はなく、この約5時間ほどの間の「犯行」と考えられた。そして辺りには、のこぎり5本、のこぎり鎌1本、はさみ1本、ハンマー1本、小型シャベル1本、粘着テープ1個が無造作に散乱していた。
つまり“犯人”は大勢の人が行き交う公園の中で白昼堂々、「ギコギコギコ」と音を立てながら竹を30本も切り倒したとみられる。いくつかは下部に切れ目があり、座って切られたと推測されたが、それ以外の多くは成人の腰付近の高さで切りそろえられていた。
同様の犯罪を考えると、犯人は盗んだものを何かに使ったり、どこかに売り飛ばしたりするのが通常だ。だが、なぜか今回は竹を切りっぱなしで、現場に放置していた。
「怪事件」に鶴見緑地公園事務所の担当者は「切られたことは非常に残念だったが、本当に目的がよく分からなかった」と振り返った。
市は翌26日、公園の指定管理者を通じて大阪府警鶴見署に通報し、被害届を提出しようと検討し始めた。ところが通報当日、署員が竹林付近を夕方近くまで警戒していると、怪しい集団が現れた。それは近くの小学校に通う6年の男児5人と4年の女児1人の計6人組だった。
小遣いで百均ノコギリ
授業を終えて下校した6人は、現場に残していたのこぎりなど道具類を探し、さらに竹を切り進めようとしていたようだ。
意外すぎる犯人に驚いた署員や市職員が「こんなことしたらあかんやろ。なんで竹なんか切ったんや」と問いただすと、子供たちはこう言って謝った。
「秘密基地を作っていた。ごめんなさい」
思いも寄らぬ言葉に、注意した大人の方が思わず笑顔になってしまった。関係者によると、子供たちは親から「家の中でばっかり遊ばずに、元気よく外で遊んでおいで」と言われ、近くの鶴見緑地公園で遊ぶことを決めたそうだ。そこで思いついたのが秘密基地を作ることだった。のこぎりなどの道具類は百円均一ショップに自分たちで出向き、なけなしのお小遣いで購入したものだったという。
翌27日には、6人が通っている小学校の校長らが公園事務所を訪れて謝罪。さらに同月31日には、保護者がそれぞれ子供と一緒に事務所に来て頭を下げた。「もう二度としません」などと各自が書いた反省文も持参していた。
「最初は『何ともひどい人間がいるものだ』と思っていた」と公園事務所の担当者。しかし、実際は少しルールを逸脱した子供の遊び。「『今時、こんな子がいるんだ』と、むしろ事務所内はほほえましい空気に包まれた」と語る。
公園事務所は伐採された竹30本について、大阪市旭区の城北菖蒲(しょうぶ)園に無償で提供し、竹細工などに有効利用してもらう考えだ。担当者は「社会のルールを知ってほしいのは当然だが、竹は数年でまた伸びてくる」とした上で、「公園側も秘密基地など子供の好奇心をくすぐり、成長につながるような機会をもっと作る必要があるのではとも感じた」と逆に何かを学んだ様子だった。
「危ない」何でも禁止
近年、「外は危険だから」と子供にGPS付き携帯電話を持たせて常に居場所を確認したり、どこへ行くにも付き添おうとしたりする保護者は少なくない。今は残忍な事件が絶えないだけに仕方ない側面もあるのかもしれない。ただ、大人が子供の行動すべてを監視することが果たして健全な社会といえるのか。
「大人たちが『危ないから』と子供を管理する社会では、子供が自分の頭で考え、何かを切り開いていく力が育ちにくい」と語るのは、子供の健全な遊び場づくりに取り組むNPO法人「日本冒険遊び場づくり協会」(東京)の正会員、松田秀太郎さん(43)。今は「ボール遊びはしてはいけません」などと制約する公園も多いが、「昔はこうしたルールを明文化してまで禁止する公園は少なかった。社会のすき間があって子供は伸び伸びできた」と指摘する。
文部科学省所管の「国立青少年教育振興機構」が平成26年度、全国の公立小中高生の一部を対象に実施した調査では、「ロープウエーやリフトを使わずに大きな山に登ったことがほとんどない」と答えたのが全体の約55%、「大きな木に登ったことがほとんどない」は約38%だった。昔の子供より自然体験が減ったとは一概に言えないが、同機構は「自然や生活などでの体験が豊富な子供ほど、自己肯定感や道徳観、正義感が身につきやすい傾向がある」と分析している。
「大切なことを気付かせてくれた」
今回の竹伐採騒動について、松田さんは「わざわざ百均に道具を買いに行くぐらい、自分たちの居場所になる秘密基地を作りたかったのだろう。まだそうした気持ちを持つ子供がいてどこかホッとした」と話す。
さらに「テレビゲームと違い、自然はやり直しがきかない。そうした環境でも、人は周りの木材などを使い、寒ければ少しでも暖かい場所を作ろうとするし、雨が降れば屋根を作る。『自分の頭で考える』とはそういうこと」と指摘し、最後にこう強調した。
「今回、子供たちの行動はルールには違反した。ただ、すき間がなくなりつつある日本社会にとって、大切なことを気付かせてくれたのではないか」
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