機械的動作の中に人間の温かさ。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 
犬と飼い主をともに救助した自衛隊
連載:国防最前線

鬼怒川の堤防決壊で、住民を救出する自衛隊ヘリ=10日、茨城県常総市(本社チャーターヘリから)

まさかという思いでテレビ画面を見た。9月10日、茨城県や栃木県の大雨被害は、東日本大震災の津波被害を思い出させるものであった。

 気象庁は10日未明から午前にかけて、栃木県と茨城県に立て続けに大雨特別警報を出した。茨城県知事からの災害派遣要請を陸上自衛隊・施設学校(勝田駐屯地=茨城県ひたちなか市)が受け、陸海空自衛隊のヘリ部隊や救難隊が各地から集結し救助活動を開始した。

 それにしても、このところ地震、火山、台風…と度重なり、何か起これば夜中であれ会見を開く気象庁の忙しさは、すさまじいものだ。

 当然、自衛隊もまったく気を抜けなくなってきている。各地で警戒レベルの上がっている火山があるため、近傍の陸上自衛隊を中心に待機を続けている。世間が夏休みだ連休だというときも、いつ災害派遣要請があっても、すぐに行動できるよう準備をしているのである。

 今回、果敢な救出劇を見せた救難ヘリの他にも、県をまたいで近くまで進出して命令が下るのを待っている部隊もあった。実際に活動に至らなければ画面には出てこないが、こうした人たちも含め常に国民を助け、守るための努力をしているからこその活躍なのだと肝に銘じたい。自衛隊とは常に「準備する」組織なのだ。

 「日ごろの厳しい訓練に耐えてきたのは今日のためだ!」

 災害派遣に出る際には、隊員にこのような言葉をかける指揮官が多いようだ。今回も隊員たちはすべての孤立した人を助け出そうという気概に満ちていたという。

「もう大丈夫ですよ、とまず声をかけてくれました」

 救出された人がインタビューで自衛官に励まされた様子を話していた。飼い犬と屋根に避難していた人は、犬と一緒に救助してもらってもいいのか躊躇(ちゅうちょ)したようだった。だが、自衛官は不安そうな犬と飼い主をともに抱き、ヘリが引き上げた。

 画面で見る自衛官たちは声もなく機械的に動いているようだが、被災者には温かい人間の姿が記憶に残ったようだ。

 一方、御嶽山噴火に伴う災害派遣でもそうだったが、自衛隊があまりに難なくやっているように見え、「当たり前」と思われているのではないかと心配もしてしまう。

 今回も周囲を飛ぶ多くの報道ヘリや電線などをケアしながらの難しい活動だったことが想像される。国や自治体、そして国民としては、自衛隊や警察、消防、海上保安庁といった機関がいかにすれば活動しやすいかを考えることも必要となるだろう。

 ■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)、「武器輸出だけでは防衛産業は守れない」(並木書房)など。