「吉田ドクトリン」の呪縛 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 
安全保障 自衛隊はどれくらい強いのか 佐藤正久氏
 

離島奪還訓練で、陸上自衛隊員らを乗せ浜辺を移動する水陸両用車「AAV7」=今年2月、米カリフォルニア州のキャンプ・ペンデルトン(共同)

 日本は戦後、米軍を「矛」、日本を「盾」になぞらえた「吉田ドクトリン」の呪縛(じゅばく)から今も抜け出せないでいる。脅威的な軍事力を誇示する中国の覇権が広がり、わが国を取り巻く安全保障は大きく変貌(へんぼう)を遂げたが、それでもまだ、「軽武装・経済外交」の信仰が重くのしかかる。わが国は現状の戦力と法整備で有事に即応できるのか。(iRONNA

 「自衛隊はどれくらい強いのか」と問われれば、「それは、想定する対象による」と答えざるを得ない。全世界の軍事費の約半分の額が投じられている米軍に比べれば、総合的に見て、自衛隊の力不足は否めない。

 一方、100年以上国内で建造し、運用してきた歴史を有する日本の潜水艦の技術と性能は世界に誇れるものである。よって、自衛隊のことを一概に「強い」とも言えないし、「弱い」とも言えない。ただ、自衛隊には「限界」がある。ここでの限界とは、「法律の整備が不十分であるがゆえに、自衛隊では十分に対処できない事態が存在する」という意味である。

法律があってこそ

 自衛隊は「法律」という根拠があってこそ行動できる組織である。法律がなければ、自衛隊は一ミリも動くことができない。法令を順守する組織である自衛隊は「超法規的措置」を取ることなど断じて許されないからである。

 また、法律がないということは任務として想定されていないことを意味するため、訓練などの準備をすることもできない。特に、イラクやインド洋での国際協力においては、これまで特別措置法で対応してきたため、事前準備に課題があり、現場に多くの負担を強いてきた。

 さらに、国内では可能な武器使用が国外では制限されるという任務と武器使用権限の乖離(かいり)が法的にあった。これら課題を改善するのが、国会で審議中の「平和安全法制」だ。平和安全法制では平時から有事まで、切れ目のない防衛体制を構築しようとしている。

 例えば、防衛出動に至らない事態、すなわち平時から重要影響事態における「アセット防護」。アセットとは、艦艇や航空機など「装備品」を意味する。法案では、「自衛隊と連携して、わが国の防衛に資する活動」に従事する米軍などのアセットを相互に防護できるようにしている。

現在、警戒監視中の自衛隊艦船などが攻撃された際、米軍は自衛隊を防護できるが、逆はできない。「助けてもらうけど、助けられない」自衛隊が本法案により、「助け合う」自衛隊に変化する。

 さらに状況が切迫し、例えば朝鮮半島有事、日本に戦禍がいまだ及んでいない段階で、弾道ミサイル警戒に当たっている米イージス艦を北朝鮮の戦闘機から自衛隊が防護することは国際法上、集団的自衛権に当たり、現在の法律では不可能。日本にミサイルが着弾し、国民に犠牲が出るまで、自衛隊が米イージス艦を守らなくていいのかという課題があった。

この瞬間も国防の任

 平和安全法制では、当該事態などを「存立危機事態」とし、自衛のための他衛、すなわち自衛目的の場合に限り、一部集団的自衛権行使を可能とした。つまり、これまで日本防衛のすき間であった日本有事前の「存立危機事態」においても日米の艦船などが相互に守り合うことが可能になった。

 現行法上、さまざまな「限界」を抱えているとはいえ、防衛省、自衛隊は可能な範囲で能力構築を進めている。その一つは、島嶼(とうしょ)防衛への備えである。例えば、平成30年度までに創設を目指す陸上自衛隊の「水陸機動団」。基幹になる部隊は今年度中に新編される見込みである。水陸機動団は米国製の水陸両用車AAV7などを備え、将来的には約2千人を擁する部隊になる予定である。

 自衛隊は法制度上の制約を抱えながら、今、この瞬間も国防の任に当たっている。しかし、それでも防衛政策に関する議論はなかなか前進しない。平和安全法制の審議に際し、木を見て森を見ない議論を続ける一部野党の主張はその象徴である。政治の停滞は、現場で汗する自衛官により多くの負担を強いることになる。「自衛隊はどれくらい強いのか」を規定するのは、個々の装備や隊員の能力ではなく、行動を規定する法制度そのものであることを、立法を担う政治家も、その政治家を選ぶ国民も心に留め置く必要がある。

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【プロフィル】佐藤正久 さとう・まさひさ 参院議員。昭和35年、福島県生まれ。防衛大卒業後、陸上自衛隊に入隊。平成16年にはイラク先遣隊長として現地で指揮し、「ヒゲの隊長」の愛称で一躍有名になった。19年に初当選し、現在2期目。

産経ニュース