6メートルの“絆” | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 
【防衛最前線(34)】空中給油機KC767
6メートルの“絆”で戦闘機に燃料と「安心」を供給

 

F15戦闘機に空中給油するKC767(航空自衛隊提供)

航空戦では戦闘機の滞空可能時間が長いほど戦局を有利に進めることができる。戦闘機の性能で差をつけるのには限界もあり、飛行中の戦闘機に燃料を供給する空中給油機の存在がモノをいう。

 航空自衛隊の「第404飛行隊」は日本で唯一の空中給油部隊だ。平成21年3月に小牧基地(愛知県)の第1航空輸送隊に新編された。誕生から6年という若い部隊だが、「日本の防空作戦の選択肢を大きく広げる可能性を秘めている」(航空自衛官)との期待を集めている。

 部隊の主力機は空中給油機「KC767」だ。現在、4機を運用している。米ボーイング社の旅客機「767-200ER」をベースに開発され、機体後方に給油ブームなどの空中空輸システムを装備している。航続距離は、航空自衛隊の輸送機の中では政府専用機に次ぐ7200キロ(30トン積載時)を誇る。

 KC767を運用しているのは航空自衛隊とイタリア空軍のみ。空中給油機は他にも米空軍の「KC135」や「KC10」などがあるが、KC767は空中給油機として世界初の遠隔視認装置を採用。機体底部の5台のカメラを使い、操縦席後部に位置する操作卓で給油口から伸びる長さ約6メートルのパイプの位置を確認しながら、戦闘機への給油を行う。

空中給油を受けることで、戦闘機の滞空時間は「数倍」(空自関係者)に伸びる。警戒空域に戦闘機を長時間待機させ、敵機への早期対処を行う「空中警戒待機」と呼ばれる作戦がとりやすくなるなど、防空能力が高まるとされる。KC767の存在により、戦闘機は燃料の残量に気を取られることなく、安心して任務にあたることができる。

 また滞空時間が長くなれば、戦闘機が母基地に帰還する回数も減る。基地から遠く離れた訓練空域での滞空時間も長くなり、効率的な飛行訓練を行うことが可能になった。基地周辺の騒音軽減や離着陸時の事故防止なども期待できる。

 空中で正確、迅速に給油するためには、高度な操作技量が求められる。そのため第404飛行隊は、毎年開催される日米共同訓練「レッド・フラッグ・アラスカ」や日米豪による共同訓練「コープ・ノース・グアム」に参加し、空中給油部隊としての練度を高めている。

 KC767は航空輸送機としての顔も持つ。機内は貨物や装備を輸送する「カーゴ・モード」(最大約30トン積載可能)と、人員を運ぶ「パッセンジャー・モード」(同約200人輸送可能)に転換することができる。

 昨年12月には、西アフリカで猛威を振るったエボラ出血熱に対する国際緊急援助隊として、個人防護具約2万着をガーナに輸送。25年のフィリピン台風被害のときは、医療要員や医療器具を同国に送った。東日本大震災や、22年のパキスタン洪水被害でも人員や物資を輸送するなどマルチぶりを発揮し、現地の復興に一役買っている。

(政治部 石鍋圭)
 
 

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