昭和40年代の北海道に何が?
14~20歳の女性5人が次々に失踪、家出などの動機なく…。

北海道で昭和40年代前半、14~20歳の若い女性が次々と謎の失踪を遂げた。北朝鮮による拉致の可能性を排除できない行方不明者について調べている「特定失踪者問題調査会」の調べでは、その数は氏名を公開している人だけで5人に上っている。調査会が5月27~29日に北海道南部で実施した現地調査では、そのうちの一人の足取りを調査。政府が認定している拉致被害者との共通点も浮かび上がってきた。
「服地買いに行く」と伝え、そのまま不明に
かつてニシン漁で栄えた北海道南西部の岩内町。この町から昭和42年4月21日昼、20歳の女性が忽然(こつぜん)と姿を消した。
行方不明になったのは、家事手伝いの城崎瑛子(えいこ)さん(68)=失踪当時(20)。この日、城崎さんは午前8時か9時ごろ、母親に「服地を買いに町に行ってくる」と言い残し、外出し、そのまま行方不明となった。
岩内港の防波堤に本人の靴、鞄、服地、ケーキなどが置いてあるのを地元の漁師が発見。付近の海底の捜索が行われたが、城崎さんの姿は見つけられなかった。自殺や自ら姿をくらますような事情は見当たらない、謎の失踪だった。
調査会は5月29日、城崎さんの足取りを追った。遺留品が残されていた岩内港や城崎さんの実家があった場所、城崎さんが通っていた洋裁教室があった寺などを回り、関係者から話を聞いた。
城崎さんの調査を通じ、調査会関係者はあることが非常に気になったという。昭和40年代前半に北海道で若い女性が姿を消す事案が集中して発生していることだ。この時期に失踪した特定失踪者は氏名などを公表している人だけでも、城崎さんを含めて5人に上る。
昭和42年に失踪した城崎瑛子さんの所持品が残されていた防波堤=5月29日、北海道岩内町
ほかの4人は昭和42年1月に釧路市で失踪した吉田雪江さん(66)=失踪当時(17)▽42年10月に常呂(ところ)町(現北見市)で行方不明になった中学生、岡田優子さん(62)=失踪当時(14)▽43年12月に網走市で消息を絶った高校生、国井えり子さん(63)=失踪当時(17)▽44年3月に美唄市で失踪した看護師、長谷川文子さん(63)=失踪当時(17)。いずれも自らの意思で行方をくらます事情はなく、調査会が北朝鮮による拉致の可能性もあるとして、調べている失踪者だ。
昭和43年に行方不明になった国井えり子さん
昭和42年に行方不明になった岡田優子さん
昭和44年に行方不明になった長谷川文子さん
昭和42年に行方不明になった吉田雪江さん
昭和42年4月に行方不明になった城崎暎子さん
昭和46年12月に行方不明になった名取志津子さん
失踪場所付近に存在する北朝鮮工作員潜入ポイント
5人から少し時期ははずれているものの、昭和46年に北海道から姿を消した失踪者もいる。瀬棚町(現せたな町)の金物店員、名取志津子さん(63)=失踪当時(19)。今回の調査会の現地調査では、名取さんも調査対象の一人だった。
名取さんは当時、瀬棚町に隣接する北檜山町(現せたな町)で姉夫妻が経営していた金物店に勤務。そこから自宅に戻る途中で行方不明になった。
名取さんの実家があった瀬棚町には、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の元幹部が著書の中で、北朝鮮工作員との「接線ポイント」として選定した「ロウソク岩」がある。
元朝鮮総連幹部が北朝鮮工作員との接線ポイントとして設定していた「ロウソク岩」=5月28日、北海道せたな町
今回の現地調査では、ロウソク岩についても調べた。独特の形状をしており、沖から北朝鮮の工作船が目印として確認しやすい上、岩からはそのまま陸地に上がることができる。さらに陸地側からは見えにくく、身を潜める地点としても使えるため、工作員の潜入地点として使い勝手がいいことがうかがえた。
勤務先から帰宅途中に失踪した名取さんがロウソク岩に行ったかどうかは分からない。だが、北朝鮮工作員の潜入ポイントが近くにあったことは失踪に不気味な影を落としている。
「若い女性を狙え」との指令があった可能性も
名取さんを含め、昭和42年から46年までのわずか5年間に6人もの若い女性が消えた北海道。調査会によると、ほかの地域では同様の例はあまりないといい、偶然とするには無理があるとみている。
この時期に北海道では一体何があったのか。調査会の荒木和博代表は「『若い女の子を連れてこい』というような指示に基づいて、それぞれの土地にいる工作員が動いたのではないか」と“拉致指令”のようなものがあった可能性もあると話す。
認定被害者と共通する「手芸」のキーワード
北海道から昭和40年代前半に行方不明になった若い女性のうち、城崎さんをめぐってはもう一つ気になる点がある。城崎さんが岩内町の寺院の境内にあった洋裁教室に通っていたことだ。
昭和52年10月に鳥取県米子市から北朝鮮に連れ去られた政府認定の拉致被害者、松本京子さん(66)=拉致当時(29)=も編み物教室に通っており、自宅から教室に向かう途中で拉致された。
北海道という同じ地域から謎の失踪を遂げ、このうち一人については、政府認定の被害者と共通するキーワードも浮かび上がる。偶然という言葉では片付けられない連続失踪について、調査会は今後、さらなる情報収集を続ける。
産経ニュース