「事件」と「テロ」 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 

「事件」と「テロ」の区別 しっかり認識を。

ZAKZAK 夕刊フジ


多くの被害者を出した地下鉄サリン事件=1995年3月


「イスラム国」が、ジャーナリストの後藤健二さんを殺害したとする動画がインターネット上に流された。卑劣極まりない行為だ。テロリストの暴挙は決して許されるものではない。

 世間には、この事案を「人質事件」として、一般的な誘拐・人質事件と同様に捉えている向きもあった。だが、これはテロである。わが国ではまだ、「事件」と「テロ」の区別がしっかり認識されていない。

 テロの定義とは何か。これは各機関で若干違いがあるが、共通する大まかなくくりは、その行為が「政治上の目的を達成するため」「不安や恐怖を抱かせるため殺傷や破壊などの暴力行為を伴うもの」であることだ。つまり、通り魔による無差別殺人の類はテロとは呼ばない。

 防衛省・自衛隊においては自衛隊法81条の2にその定義が見て取れる。「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で多数の人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊する行為」とある。

 テロは政治上の目的により生起し、翻れば、テロに対して政府が政策を変更すれば、テロリストを「勝利」させることになる。そうすれば、一時的には問題が解決するかもしれないが、その後、さらなるテロを呼びこんでしまう危険性が大なのである。

 すでに複数の日本人がイスラム国に入り、構成員になっているとの噂もある。今後、彼らが「人質」としてか、または「犯人」として登場する可能性も否めない。その時、どうするのか。

 そもそも、湯川遥菜さんが拘束されたのは昨年夏であり、今回の事件は想定内であった。さらなるテロを防ぐことは喫緊の課題だ。

 実際、わが国はこれまでも数多くのテロを許している。松本・地下鉄サリン事件だけでも、死者計21人、7000人近い負傷者を出している。欧米諸国では、国外の過激思想に共鳴して国内出身者が引き起こす「ホームグロウン(自国育ち)・テロ」も多発しており、日本でも公共機関、あるいは基地・駐屯地などの警備態勢が重要課題となって然るべきだろう。

 被害者の個人的性格や家族構成などに関心が集まり、情報が氾濫しているが、それらはテロ解決には何の意味もなさない。むしろ、警察だけでは網羅できない隣近所の動向に私たちはもっと注意を払ってもいいのかもしれない。プライバシーの問題もあり都市部では他人に無関心だが、国民レベルの意識改革が求められそうだ。

 ■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)、「武器輸出だけでは防衛産業は守れない」(並木書房)など。