「はやぶさ2」で生きる弾火薬メーカーの高度な技術力
ZAKZAK 夕刊フジはやぶさ2と小惑星の想像図(JAXA・池下章裕氏提供)
昨年12月に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ2」。その開発プロジェクトに携わった企業名を見ていると、多くの防衛産業が日本の宇宙開発にも一役買っていることが分かる。そんななかで、今回、目を引いたのは福島県白河市にある日本工機の存在だ。
日本工機は12・7ミリをはじめとする小・中口径の銃砲弾を製造している会社だ。今回、弾火薬メーカーが「はやぶさ2」にも携わっていたということで、意外に感じた人もいたかもしれない。
「はやぶさ2」の任務は2018年夏に小惑星「1999JU3」に到着し、小惑星が誕生したときから存在する内部物質を採取することであるが、その成功の鍵を握るのは「人工クレーター」を作ることだ。
クレーターを作る衝突装置の心臓部にあたる爆薬部分を同社が製造した。内部に詰めてある火薬が爆発し、銅板がソフトボールのような衝突体に変形して小惑星に衝突する仕組みだ。
「衝突体を狙った位置に確実に飛ばすこと、これが第1の要求です」
JAXA(宇宙航空研究開発機構)のオーダーを受け、同社に約10人から成る「はやぶさ2衝突体プロジェクトチーム」が立ち上がったのが、2011年1月だった。しかし、それから間もない同年3月、東日本大震災が発生する。
「土手が崩壊し、電信柱が倒れて…。従業員総出で復旧作業に明け暮れました…」
火薬を扱っていることから、敷地内に土手を張り巡らせるといった火薬取締法や武器等製造法の厳格な規則を守らねばならない。完全に元通りになるまでは工場を再稼働することはできない。
しかも、このような特殊な事情があるだけに、自分たちで重機を扱い土木作業を行う日々が続き、あっという間に1カ月がたった。
「10月の最初の試験まで半年しかない、試作品は間に合うのか?」
復旧作業に手間取るなか、社内ではそんな心配も出始めていた。しかし、チームの思いは揺るがなかった。
「何としても間に合わせよう!」
ようやく作業が再開、開発チームは地震で傾いたままの仕事場でコンピューターと向き合い、ひたすら計算を繰り返した。特に火薬の配合は難題だった。些細(ささい)な生成の差が衝突体の飛翔(ひしょう=飛行)姿勢、方向性に大きな影響を与えるからだ。
弾火薬メーカーは装備品輸出の論議で置き去りになっている感があったが、自国の宇宙開発で高度な技術力が発揮されたことは実に頼もしい。
■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)、「武器輸出だけでは防衛産業は守れない」(並木書房)など。