【防衛最前線】
F2戦闘機 復興に向け闘うマルチロール機
産経ニュース平成23年4月17日、東日本大震災の津波で被害を受け、復旧に向けた整備を受ける航空自衛隊松島基地のF2戦闘機=宮城県東松島市(鈴木健児撮影)
1万8000人以上の死者・行方不明者が出た平成23年3月の東日本大震災では、自衛隊の装備も決して無傷ではなかった。その際たるものが航空自衛隊松島基地(宮城県)のF2戦闘機だ。津波が襲いかかり、18機が水没した。
「信じられなかった。機体番号を見ると、私がかわいがっていた飛行機だった…」
震災当時、築城基地(福岡県)に配属されていたF2パイロットは、機首が建物の窓に突っこんだまま泥まみれの機体をテレビ画面で目の当たりし、「胸が締めつけられる思いだった」と振り返る。
未曾有の震災に見舞われたF2は、誕生当時から“苦労”が続いている。
1980年代、日本政府は国産の次期支援戦闘機(FSX)導入を目指したが、実現すれば米航空機メーカーは日本というお得意さまを失うことになる。日米経済摩擦の過熱を背景として米政府はこれを認めなかった。
この結果、米国製F16をベースとした日米共同開発により誕生したのがF2だ。
F16の愛称「バイパー(viper。『毒蛇』)」と、F2が自衛隊に配備された2000(平成12)年をとって「バイパー・ゼロ」と名付けられた。もっとも、「今では誰もそんな名前で呼ばない」(空自関係者)という。
とはいえ、F2がF15、F4とともに、日本の空を守る戦闘機3本柱であることに変わりはない。
その最大の特長は対艦、対地攻撃に加え、航空戦でも能力を発揮する「マルチロール(multirole)機」としての役割だ。複数の計器スイッチを蛇遣いのように操るパイロットは「チャーマー(charmer。魔法使いが転じて『蛇使い』)」とも呼ばれる。
日本独自の炭素繊維複合材技術により、軽量で継ぎ目のない機体を実現した。同時に複数の目標を捉えることができることから「トンボの目」とも呼ばれるレーダーを搭載したのは、量産機としては世界初だった。衛星誘導爆弾(JDAM)を搭載し、最新鋭ステルス戦闘機F35が導入されるまでは島嶼(とうしょ)防衛の主力となる。
それだけに、F2の津波被害は空自に打撃を与えた。松島基地のF2が水没したことを受け、三沢基地(青森県)のF2部隊の警戒態勢を確認するかのようにロシア軍のSu27戦闘機が日本領空周辺に飛来した。
松島基地のF2は教育訓練用だが、機体が減ればその分、育てられるパイロットも減る。空自は現在、戦闘機操縦課程の「パイロットの卵」を三沢基地のF2に乗せているが、「当初計画していた以上にF15パイロットが増え、F2パイロットが減る状態が続いている」(空自関係者)という。
F2は23年9月に製造が終了し、生産ラインを停止する予定だった。新規調達はできない。空自は水没した18機のうち13機について、部品交換などによる修理を行うことに決めた。修理作業を終えて被災したF2が松島基地に戻ってくるのはもう間もなく。自衛隊もまた、震災からの復興に向けて闘っている。(政治部 杉本康士)
松島基地のF2も甚大な津波被害を受けた。修理が終わるのもまもなく。自衛隊も震災からの復興に闘っている=平成23年3月12日、宮城県東松島市の航空自衛隊松島基地(本社チャーターヘリから大山文兄撮影)
平成26年10月、航空観閲式を前に関係者に事前公開された航空自衛隊のF2戦闘機=茨城県小美玉市の航空自衛隊百里基地(鈴木健児撮影)
平成19年10月、航空自衛隊芦屋基地の航空祭に参加したF2戦闘機=福岡県芦屋町(山下香撮影)
平成19年8月の陸上自衛隊富士総合火力演習に参加する航空自衛隊のF2戦闘機=静岡県御殿場市(古厩正樹撮影)
平成26年10月、航空観閲式を前に地元住民や関係者らを招いて事前公開が行われたF2戦闘機=茨城県小美玉市の航空自衛隊百里基地(鈴木健児撮影)