問われるのは「戦後日本」 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 

【河村直哉の国論】

産経ウェスト


衆院選、問われるのは「戦後日本」
憲法改正なくして「ふつうのまっすぐな国」には戻れない



 直接には消費税再増税先送りへの信を問うとされているが、衆院選は安倍晋三政権継続への信任が問われる選挙、と考えた方がすっきりしよう。そしてそれは一つの政権の継続という次元だけではなく、戦後、左傾してきた日本のありかたが、平成26年末の段階でどうなっているのかということを示すバロメーターにもなると筆者は考える。

戦後的基準による批判

 たとえば安倍首相が解散を表明した翌日の社説で、毎日新聞は「争点は『安倍政治』だ」として、これまでの政権のありかたを点検した。そこで安倍首相の「強引な政権運営」の典型として挙げるのが、特定秘密保護法の制定や集団的自衛権をめぐる憲法解釈。あるいは来年の戦後70年に向けて社説はこうも書く。「もしも歴史修正主義的な認識を発信することになれば、日本は国際的に孤立してしまう。靖国神社参拝の是非も問われよう」

 ここには、日本の戦後を特徴づける考え方が集約的に現れているといってよい。平和憲法も、終戦までの日本を悪とする歴史観も、戦後日本のありかたを形成してきた骨格といってよいものなのである。

 同じ日の朝日社説も特定秘密保護法や集団的自衛権の議論に触れた。「(議論の際首相は)国民の審判を仰ぐそぶりすら見せなかった。表現の自由や平和主義という憲法価値の根幹にかかわり、多くの国民が反対した問題であるにもかかわらずだ」と、批判の根拠はやはり戦後的な基準によっている。「憲法価値」といっているので、よりわかりやすい。

 2紙とも、特定秘密保護法や集団的自衛権の行使容認に際し反対キャンペーンを展開してきた。そこに働いていたのも戦後的な価値基準だったといってよい。さきの戦争に対する過剰な自省(自虐)、国家権力への過敏な批判姿勢、憲法の擁護などは、2紙に限らず戦後日本で主流の論調だった。筆者はそれを戦後日本の左傾といっている。

 安倍政権のこれまでとこれからを民意が是とするか非とするかは、こうした戦後の左傾を日本人がどうとらえるかということにつながる。

「右傾化」騒ぎ何だったのか

 2年前の衆院選の前後、しきりと「右傾化」という言葉が内外のメディアに登場した。投開票翌日の朝日の社説は、安倍首相と周辺の歴史認識を持ち出し、こんなふうに書いた。

 「戦前の反省をふまえた、戦後日本の歩みを転換する。そうした見方が近隣国に広がれば、国益は損なわれよう。米国からも日本の『右傾化』への懸念が出ている折でもある」(平成24年12月17日)

 こうした国内の論調に呼応するように、韓国や中国のメディアも「右傾化」という言葉を使って日本を牽制(けんせい)した。牽制どころか歴史問題で過激な攻撃を続けてきた。

 だがそもそも、戦後日本の歩みを転換することは「右傾化」なのだろうか。むしろそれは、敗戦と連合国軍総司令部(GHQ)の占領方針、独立後もその方針を後生大事に抱いてきた日本人自身によってあまりに偏っていた日本が、ふつうのまっすぐな国に戻ろうとしているということではないのか。この間のさまざまな動きは、政治も人々の意識もひっくるめて日本という国の戦後の歩みが軌道を変えはじめようとしているように、筆者には映る。慰安婦問題で自らを過剰におとしめてきた朝日新聞に対して、国民の間で広く起こった批判などは、そのことを示していよう。

最大の課題は憲法=国の構造

 気の早い選挙予想などはやめておく。投開票の結果がどうであれ、日本という国が抱えている課題は明確なように筆者には思える。

 直接には、解散で信を問うとした再増税先送りに伴う経済の立て直しが、まずもっての課題であることはいうまでもない。中国との関係など現実に即した喫緊の課題も、いくつもある。だが日本の戦後の見直しという点から見れば、より根本的には、占領下に作られた戦後憲法の改正なくして日本が真にふつうの、まっすぐな国に戻ることはないといわねばならない。これは特定の政治スタンスの支持不支持という以前に、ものごとの考え方としてそうなのだ。

憲法(コンスティテューション)は国の構造(同じくコンスティテューション)でもある。当然、その国の歴史や伝統、習俗、道徳まで見渡したものでなければならない。終戦後、GHQのスタッフ二十数人が1週間ほどで作った草稿をもとにした戦後憲法が、そのような日本の国柄を反映しているとはとてもいえない。憲法の改正とそれに伴う安全保障体制の見直しは、戦後日本が抱える最大の問題であり続けている。

 憲法改正を視野に入れた政権の継続を認めるか、否か。はっきりした争点とならなくても、今回の選挙で問われるのは実は、戦後日本のありかたへの是非ではないか。   
(大阪正論室長)   =随時掲載します