
【防衛最前線】(3)陸上自衛隊ヘリUH60JA 御嶽山噴火の救助で見せた「神業」
2014.10.17 06:00
9月27日に発生した御嶽山(おんたけさん)の噴火は、犠牲者が50人を超える戦後最悪の火山災害となった。家族を失った人々の悲しみは想像を絶するが、自衛隊などによる懸命の救助活動で一命を取り留めた人も少なくない。
噴火翌日の28日、山頂付近で計23人を救助したのは、陸上自衛隊第12ヘリコプター隊の多用途ヘリUH60JAだ。インターネット上では「自衛隊ヘリがみせた神業」と絶賛する声が相次いだ。
「多用途」というだけあって、UH60の役割は空中機動作戦や災害派遣など多岐にわたる。平成16年の新潟県中越地震や、23年の東日本大震災にも投入された。そんな「修羅場」をかいくぐってきたUH60にとっても、御嶽山での救助活動は難度を極めたという。
高度3000メートルでの救助活動は危険と背中合わせだ。標高が高ければそれだけ空気密度が低く、ホバリング(空中停止)ではエンジン出力を限界近くまで上げなければならない。真冬であれば空気密度は濃いが、御岳山が噴火したのは暑さが残る9月。こうした悪条件に加え、山頂付近ではあらゆる方向から突風が襲いかかる。強い風を受ければ墜落しかねない環境下に置かれていた。
また、ヘリは浮力を得るため、空気を下に送る。地表に近づけば降り積もった火山灰が舞い上がりかねない。そうなれば視界が閉ざされ、救助活動は困難を極める。
これだけの厳しい条件下で任務を果たすことができたのはなぜか。
UH60は、衛星利用測位システム(GPS)や航路を維持させる慣性航法装置を装備しており、自機の位置を正確に把握できるからだ。航法気象レーダーにより雷雲などを避けることも可能だ。エンジンに異物が混入しないための空気吸入口(エア・インレット)には特殊フィルターも備え付けられており、火山灰であっても身を守れる。
陸自には、大量の人員と機材を運べるCH47がある。ただ、重量はUH60の4.7倍になり、噴火直後は降り積もった火山灰が飛散しやすく、離着陸は容易ではない。このため、CH47が御嶽山で活動を始めたのは、噴火から4日たった10月1日だった。UH60が自衛隊内で「最後のとりで」と呼ばれるのは、過酷な状況でも直ちに災害現場に飛び込むことができるからだ。
とはいえ、最後に求められるのはパイロットの技量になる。あるUH60パイロットは「局地的な突風を予測してエンジン出力を調整するためには風を読むことが必要だ。木の揺れや火山灰の舞い方、機体の揺れなどを瞬時に判断して突風に備えなければならない」と、操縦の難しさを説明する。
最新ハイテク機器を搭載したヘリコプターと熟練パイロットの勘。この2つのいずれかが欠けていたなら、2次災害の危険さえ十分にあったのだ。(政治部 杉本康士)
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産経新聞