安倍外交と対ロシア外交 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 
西村眞悟の時事通信より。



No.1009 平成26年 9月 8日(月)




 昨日は、内閣改造について書いた。
 その改造の主催者である総理大臣は、
 国内では、「新閣僚に聞く」とかの「内閣改造売り番組」が流れている最中に、さっさと、バングラデシュとスリランカで首脳会談をしている。
 見事である。
 内閣改造の次元の低さを補って余りある。

 安倍総理が、就任後に続けている外交は、
 我が国が有していた国家戦略上の名称でいえば、
 「南方作戦」と「西亜作戦」である。
 つまり、我が国の南西に連なるフィリピン、インドネシア、ミャンマーなどのアセアン地域からインド洋である。
 この我が国からユーラシア大陸の南に沿ってインド亜大陸に繋がって中東に至る海洋と島嶼と沿岸部地域、
 此処が我が国の存立の基盤、つまり、生命線だ。
 この地域の国々との友好連携が我が国の存立を確保する。
 安倍外交は、この我が国の基盤的地域に沿って行われている。
 
 この構想は、一朝一夕のものではなく、
 岸信介総理が、就任早々に実行した東南アジア諸国訪問の意図につながるものだと思う。
 岸信介の意図につながるとは、
 つまり、
 大東亜共栄圏構想につながるということだ。
 昔も今も、この地域との共存共栄が、
 我が国の存立のための国家戦略である。
 
 則ち、我が国存立の国家戦略は、
 戦前と戦後の連続性の回復なくして成り立ち得ないのだ。
 
 そこで、安倍総理、
 安倍外交が狙う、我が国との共存共栄の地域、
 あと残るは何処か。
 それは、「台湾」だよ!
 と、申し上げておく。

 また、中国と韓国について触れておくが、この中韓両国と、
 「首脳会談をしていないこと」が安倍外交の輝く実績である。
 世界も、気付き敬意を表しつつある安倍外交の独自性だ。
 
 この地域は、福沢諭吉翁曰くの通り、
 我が国の疫病神である。
 一体、明治以来、今までつき合って何かいいことがあったのだろうか。
 人のものをすぐ自分のものと思い込む、
 大阪弁で言う、ぼったくれの地域ではないか、
 そして、恩を仇で返し、すぐに逆恨みする。
 
 よって、安倍内閣に警告すべきことは、一点のみ。
 それは、この両国からの定住者を増やすな、
 移民を絶対に受け入れるなということだ。

 さて、ロシアである。
 安倍総理は、ロシアのプーチン大統領と、度重なる首脳会談を経てきた。そして、その両者の信頼関係に期待されていた。
 しかし、プーチン大統領は、本年初頭のソチ冬季オリンピックの最中に密かにウクライナ国境に軍隊を集結し、
一挙にクリミアを武力併合し、ウクライナ全土に軍事的圧力を加えつつある。
 
 これは、プーチンが、
 軍事力によって、欧州の冷戦後の時代秩序を一挙に崩壊させ、
十九世紀的な「力の行使の時代」に戻したという歴史的事件である。
 
 このプーチンに対して、この度、欧米二十八カ国の首脳が、イギリスのウェールズに集まって北大西洋条約機構(NATO)首脳会議を開催し、結束して「ロシアの不法行為と軍事的脅威」に対抗してゆくことを確認した。
 しかし、この会議に、我が国の首脳すなわち安倍総理もしくは外務大臣は、参加していない。
 不参加の理由は、内閣改造か。しかし、総理がバングラデシュとスリランカを訪問しているので、そうではあるまい。
 結局、今のところ、不参加の理由は分からん。
 しかし、この不参加が、ロシアに対する次のサインとなっては絶対にいけないのだ。
「日本は対ロ強硬姿勢はNATOに任せ、自らは対ロ宥和姿勢を望んでいる」

 本日の産経朝刊(平成二十六年九月八日)の「視線」にロンドン支局長の内藤泰朗氏が「露大統領には厳しい姿勢を」という見出しの論考を載せている。
 そこで内藤支局長は、次の通り断定する。

「ロシアが不法占拠する北方領土を日本に返還する可能性があると日本政府が見ているとしたら、それは幻想に過ぎない。」
 
 また、同氏は、イギリスの有力シンクタンクのロシア専門家の非常に重要な言葉を引用しているので次に全文紹介する。

「ウクライナを失ったプーチン氏の心中は、すでに戦争状態にある。NATOは本気でロシアと対決しないとの読みがあるから『軍事介入すれば、(ウクライナの首都)キエフを2週間で落とせる』などと欧米を恫喝しながら懐柔し、分断を図っている。
 心理戦に勝つには、ロシアに本物の危機感を抱かせることだ。欧米が結束して軍事費を増やし、今以上の対露金融制裁を科して本気で戦う姿勢をみせること以外に方法はない。」

 私は、かねてより、ロシアに親しみをもちながら、ロシアを如何に扱うかに関しては、ロシアとのむごたらしい「戦争と平和」を経験してきたフランス、ドイツそしてイギリス等の国からの意見に耳を傾けるべきだと思ってきた。
 
 何故、ロシアに親しみをもつのか。それは、明治以降、日本人が最も多く読んだ外国文学がロシア文学だったことからも分かっていただけると思う。私は、第二外国語にロシア語を選んでいた。
 学生時代、トロッキーのようなあごひげを生やしたソビエト法を教えていた勝田吉太郎教授が、授業中に、
「あのドストエフスキーの『罪と罰』に描かれた素晴らしい女性、それは娼婦のソーニャというのだが、あのソーニャのような娼婦に出会ってみたいといつも思ってるんだよ」と言った。
 勝田教授が、何を教えたか全く覚えてないが、シベリアに流されたラスコールニコフに、そっと寄り添うためにシベリアに行くソーニャに対する思いは勝田教授と完全に一致していた為に、未だよく覚えている。

 ソーニャから、
 無粋なプーチンに戻る。

「ウクライナを失ったプーチンの心中は、すでに戦争状態にある」
このことを理解するには、ロシア・ソビエトの歴史と、プーチンの経歴を理解していなければならない。

 ロシアの「祖国戦争」と「大祖国戦争」とは、
1812年の対ナポレオン戦争と1941年から45年の対ドイツ戦争である。ともに西(今のNATO方面)から攻め込まれている。
 特にソビエト側の死者二千万人におよぶ1941年6月に始まる対ドイツ戦争の主戦場は、ウクライナであり、8月にウクライナのキエフを墜としたドイツ軍は、9月にはモスクワのクレムリンまで十数キロに迫ってきたのである。
 従って、アメリカが中南米地域のキューバにソビエトのミサイル基地が造られることを断固として阻止したように、
ロシアもウクライナなどの西側にNATOの圧力が迫ることに対する拒絶本能がある。

 また、プーチンはソビエトにおいてKGBの訓練を受けた工作員であり、ベルリンの壁崩壊の時、東ドイツにおり、東ドイツ駐留の三十万のソビエト軍を動かしてベルリンを二十数年前のプラハのようにソビエトの戦車で埋め尽くそうとして動いた男である。

 このロシアの歴史とプーチンの経歴から見て、プーチンが西側にキエフを奪われれば 戦争状態に入るのは当然である。
 クリミアを武力で呑み込んでから、プーチンは、
「NATOがキエフを奪いレッドラインを超えたからだ」と言ったと伝えられるが、まさにその通りである。
 NATOは、合法的に選ばれた前大統領をいびり倒し、最後は、アラブの革命のように武器を持つ街頭デモによって追い出した。これはまさに非合法手段である。
 これがプーチンにレッドラインを超えたと判断させた。
 つまり、プーチンは、西側が非合法で来るなら、こちらも非合法で対抗すると決意したのだ。
 アメリカとNATOは、プーチンを見くびっていた。
 アメリカとNATOは、ウクライナにおいて、非合法を偽善を装ってしていたが、プーチンは、露骨にしたのだ。
 このように、私は、プーチンを理解している。

 さはさりながら、
 ロシアはウクライナにおいて「武力による不法行為」を為したことは確かであり、
 我が国の北方領土においても「武力による不法行為」を為していることも確かである。
 よって、我が国は、ロシアに誤ったサインを与えず、「ロシアに本物の危機感を抱かせる」為に、断固として西側諸国と協働して、北方領土の為にも、戦う姿勢を鮮明にすべきである。
 これが、北方領土返還の為に全西側諸国の協働を得ることにつながる。

 最後に、日本が忘れてはならない歴史を指摘しておく。
 1941年9月、モスクワ郊外にドイツ軍が迫ったとき、スターリンは何処に救いを求めたのか。
 それは、日本の態度である。
 スターリンは、日本に潜入しているスパイのゾルゲから、
日本は北進すなわちソビエトを攻撃せず南進する、との情報を得て、日本軍の北進に備えるためのシベリアの精鋭部隊をモスクワ防衛戦に投入してかろうじてドイツの攻勢をくい止めることができた。
 つまり、あの時も、日本の動向次第でソビエトの運命が変わったのだ。

 今、プーチンも東の日本を注視しているはずだ。
 そして、北方領土で軍事演習を仕掛けて日本を揺すぶっている。
 そこで、我が国が為すべき事は、断じてプーチンを安堵させないことだ。
 「軍事力による不法行為」(クリミア=北方領土不法占拠)を断じて許さないという我が国の決意を、
西側諸国とともにプーチンに見せ付けることが必要だ。

 この意味で、何故、この度のウェールズにおけるNATO首脳会議に我が国首脳が参加しなかったのだ。
 チャンスを逃したではないか。