“丸腰”の日本漁船に問答無用の銃撃 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 

【挿絵で振り返る「アキとカズ」】(21)
竹島を不法占拠した「李承晩ライン」の惨状



産経新聞の連載小説「アキとカズ」は、北朝鮮への帰国事業開始(昭和34年12月)前夜の日本に舞台を移している。約1800人の日本人妻(夫)を含む約9万3000人が北へ渡り、塗炭の苦しみを味わう、この事業が行われた背景には、国際社会の思惑が複雑に絡み合っていた。

 韓国と北朝鮮は当時、在日コリアンについて互いに「自国の公民」であると主張していた。ゆえに韓国は、「敵国」である北朝鮮への帰国事業に対し、強硬に反対する。

 その「カード」が、日韓国交正常化に向けた政府間の協議であり、27年1月に韓国が一方的に日本海・東シナ海上に設定した「李承晩」ライン内で拿捕(だほ)・抑留した4000人近い日本漁民の“身柄”であった。

 36年に公開された今井正監督の映画「あれが港の灯だ」は、韓国に抑留された日本漁民や留守家族の慟哭(どうこく)の悲劇を生々しく描いた作品である。

 映画のなかで、韓国公船は、“丸腰”の日本漁船に問答無用の銃撃を加える。わざと、ライン内に追い込み、官憲が乗り込んで漁船を拿捕する。日本人の漁民は命からがら、海に飛び込んで逃げるしかない。

 韓国側に拘束された漁民は劣悪な環境下で長期間拘束され、留守家族は安否も分からず、不安におびえながら、ただ待つしかない。また、釈放された後も漁船は返還されず、金銭的な被害は甚大であった。

 言うまでもなく、韓国は「李承晩」ラインの中に、日本領・竹島を一方的に含め、現在に至るまで不法占拠を続けている。この映画はその現場でいかに非道な行為が行われたか、忠実に描いており、日本人にはぜひ見てもらいたい。

ところで、この映画には日本漁船の乗組員として江原真二郎演じる在日コリアンの男が登場する。

 同時期に公開された吉永小百合主演の「キューポラのある街」(浦山桐郎監督、昭和37年)では、貧しさの中でけなげに生きる在日コリアンが、北朝鮮への帰国事業に夢を託す(※当時の日本ではこちらが大多数だった)とったイメージでとらえているのに対し、江原演じる「あれが港の灯だ」の在日コリアンは、より「屈折」している。

 日本人からも、韓国人からも「スパイ」「半日本人」などとさげすまれ、居場所を見いだせない。恋人にもコリアンであることをなかなか打ち明けられず、苦悩を続けるのだ。

 北朝鮮への帰国事業に参加することも、彼ら(在日コリアン)にとって決して「最善の策」として描いているわけではない。この映画の製作者(今井監督や脚本の水木洋子)が「怜悧(れいり)な目」を持って、この問題の「真実」を見つめていたことがうかがえる。こうした意味でも、改めて注目してほしい映画だ。
(「アキとカズ」作者、喜多由浩)