「海の恩恵に感謝し、海洋国日本の繁栄を願う」 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 

「海の安全」守る精神を涵養せよ 東海大学教授・山田吉彦


日本は、海に囲まれた島国である。海によって世界の国々とつながっている。人の移動は航空機により高速化が進み、情報は通信衛星、インターネットの普及などによって世界を瞬時に結びつけている。だが、日本人の生活を支える貿易物資の輸送の99・7%は、今も海運に依存している。シーレーンと呼ばれる「海の道」は日本の生命線なのである。

 ≪今に生きる海国兵談の警告≫

 「細かに思えば江戸の日本橋より唐、オランダまで境なしの水路也」

 これは、江戸時代の経世家、林子平が1786年に書いた『海国兵談』の一節である。江戸幕府による鎖国政策下においても、日本は海によって世界と結びついているということが認識されていた。そして、海から迫り来る危機を警告したのが本書である。

 現在、子平の時代と似た状況にわが国は置かれている。国民の多くは与えられた平和に酔いしれ、世界の争乱に、迫り来る危機に目を向けようとしない。国際情勢を理解する能力が衰えてしまったのだろうか。幕府の安定した統治の下、平和ボケした江戸時代後期の人々に通ずるものを感じる。

 1994年発効の国連海洋法条約で排他的経済水域(EEZ)の制度が導入され、沿岸国の海洋権益が認められるようになった。すると中国のように管轄海域の拡大への野心を持つ国が現れ、既存の海洋秩序を守ろうとする国々と対立しだした。日本は既存秩序派の代表格であり、安倍晋三政権は東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国やオーストラリアなどとアジア海域の秩序維持のための協力関係を築こうと動いている。

≪海洋秩序めぐる日中の攻防≫

 海洋権益の拡大へと邁進(まいしん)する国の代表格、中国は、領有権を争う相手国と一対一での交渉しか認めようとせず、強大化した軍事力、経済力を背景に強硬外交を展開している。習近平国家主席は、「偉大なる中華民族の復興を目指す」と公言し、「中華思想」を基軸に置いて支配領域の拡大を進めている。南シナ海では、ベトナム、フィリピンに対し実力を行使する態勢に入った。東シナ海においてもいずれ、力をむき出しにした行動に踏み出すと予測される。

 中国が絡んだ海洋権益争い以外にも、シリア、イラク、ウクライナでは内戦ないしは内戦一歩手前の状況にあり、世界は極度に不安定化している。好むと好まざるとにかかわらず、その影は日本人の生活にも忍び寄っている。それらに対処して日本の平和を守る手段のひとつが、集団的自衛権行使である。風雲急を告げる世界情勢の中で日本が平和であり続けるために、何が必要で何を行うべきかを確認することは、政府のみならず国民の責務であると考える。

 安倍首相は、14日の衆議院予算委員会の集中審議で、集団的自衛権行使の3要件が満たされるのであれば、中東のホルムズ海峡における機雷掃海は可能であるとの見解を示した。ペルシャ湾の玄関口に当たるホルムズ海峡は、日本人が利用する原油の8割が通過する海の要衝である。中東情勢の混迷もあって、すでに原油価格は高騰しており、日本経済にも暗雲が立ち込めている。

≪「生命線」かかる機雷除去≫

 日本の海上保安庁と海上自衛隊は、第二次大戦終戦後の日本沿岸での掃海活動、朝鮮戦争時の掃海活動などで7000基を超す機雷を除去してきた実績がある。1991年の湾岸戦争直後には、海自部隊が各国海軍と協力して、クウェート沖海域で約1200基の機雷の除去を行っている。しかし、一度まかれた大量の機雷をすべて取り除くのは難しい。実際、商船三井が運航するタンカーが2010年にホルムズ海峡近くで、浮遊機雷に接触した可能性が高いとみられる爆発を受けて船体を損傷する事故が起きている。

 仮に、イラクの反政府過激派勢力、あるいはそれを支援する組織が、外国の介入を排除するためにペルシャ湾に機雷を敷設したとしたら、たとえ争乱状態の下であっても掃海作業を行う必要がある。日本の経済を防衛し、ようやくソマリアの海賊に襲われる危険から解放されつつある外国航路の船員をはじめ、日本国民の安全を守らなければならないからだ。

 機雷の危険は重要なシーレーンが縫う南シナ海にも及び得る。中国が保有しているとされる10万基の機雷が万一、海底油田の開発など同国による一方的な海洋行動を阻止しようとするベトナム、フィリピンに対して使われた場合、南シナ海を漂って日本の商船の安全を脅かすことも懸念される。

 海で世界と結ばれている島国の国民であるわれわれは、世界の海の安全に貢献する精神を涵養(かんよう)すべきである。それには、世界の海の現状を国民が正確に把握することから始めなければならない。

 今日は「海の日」である。「海の恩恵に感謝し、海洋国日本の繁栄を願う」日である。その繁栄のため、日本として世界の海の安定に向けて果たすべき役割があることを銘記する日としたい。
(やまだ よしひこ)