【お金は知っている】
サイバー戦争でドロ沼状態の米中 休戦になると日本が標的に
ZAKZAK 夕刊フジ「米中戦略・経済対話」開幕式で、演説に臨む中国の習近平国家主席(右)と米国のケリー国務長官(共同)
この9、10の両日、北京では閣僚級による米中経済・戦略対話が開かれ、サイバー攻撃問題についての「対話継続」で一致した。
米中のサイバー戦争は静かな戦闘である。たとえば、この6月19日午後6時に突如「フェイスブック」のコンピューター・サーバーがサイバー攻撃を受けて約30分間機能停止した。米軍のサイバー攻撃部隊は15分間で中国人民解放軍の仕業と発信源を突き止め、報復攻撃に出て、中国国内の携帯電話を不通にさせた。すると、中国側からの攻撃が止んだので、米側も報復を中止した。
米中の軍が直接関与する「サイバー戦争」は泥沼の状況にある。「2013年には米政府所有を含めた世界中の無数のコンピューター・システムが攻撃にさらされたが、その多くが中国政府及び軍による」(米国防総省による議会への2014年版「中国に関する軍事・安全保障の進展」報告書)というありさまだ。
業を煮やした米司法省は5月19日、サイバースパイの容疑で、中国軍の「61398部隊」所属の5人を起訴、顔写真付きで指名手配した。米原子力大手ウエスチングハウス(WH)、鉄鋼大手USスチールなど企業5社と労働組合が同部隊によるサイバー攻撃にさらされ、米産業の虎の子である原発や、太陽光パネルの重要技術が盗まれた。
6月9日には、サイバー・セキュリティー企業の米クラウド・ストライク社が、中国人民解放軍が2007年以降、米国や欧州に対するサイバー攻撃を行っているとする調査報告書を公表した。中国人民解放軍総参謀部第3部には61398部隊の他に61486部隊があると暴露し、同部隊を「パター・パンダ」と名付けた。
部隊は上海市閘北区に拠点を置き、電子メールを通じて特殊なマルウエア(悪意のあるプログラム)を送り付け、米国の国防当局や欧州の衛星および航空宇宙産業などを対象にサイバースパイ活動を行っているという。米側は犯行者の一人の電子メール・アドレスを突き止め、サイバー探査能力を誇示している。
中国側は共産党の指令下に置かれているとみられる情報通信機器・技術大手「華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)」と「ZTE(中興通訊)」の2社が海外の通信インフラ市場でのシェア拡張を着々と進めている。華為技術が納入する通信ネットワークやサーバーに「バックドア」と呼ばれるスパイ装置を埋め込むと、相手国の個人や企業の情報を入手し、悟られることなく相手を攻撃できる。
米国に弱みがないわけではない。情報通信の巨大市場となった中国から米企業を締め出すぞ、と北京は脅しをかけているのだ。
仮に「米中サイバー休戦」となれば、中国は対日攻撃に専念するかもしれない。日本自体、米国のサイバー・スパイの対象にされているくらいだから、米国が日本を「防衛」するとは考えにくい。むしろ日本市場でセキュリティー・システムのビジネスを拡張するチャンスと考えるだろう。
(産経新聞特別記者・田村秀男)