【朝日新聞研究】
朝日の突出するW杯報道 軍事的危機から目そらす意図か?
ZAKZAK 夕刊フジ朝日新聞のサッカーW杯報道は突出している
ブラジルでサッカーW杯が開催されている。日本チームは1次リーグで敗退してしまったが、マスコミの報道ぶりは、まことに盛んだった。新聞では朝日新聞の報道が突出しており、スポーツ面の外にわざわざ「サッカー」面を設けている。しかも、サッカー面はオールカラーで、朝刊のみならず夕刊まで3ページ以上もスペースを割いている日もあった。
朝日新聞がサッカーに力を入れるのは基本的に部数拡大、つまり拡販のためだろう。朝日新聞は昔からスポーツ・イベントの利用をやっており、今の高校野球は約100年前の大正4(1915)年に、全国中等学校野球大会として、朝日新聞が始めたものである。
そもそも、サッカーW杯は、戦争の代替としての役割をはたしているのではないだろうか。つまり国と国との血を流さない戦いという意味である。五輪にも同じ面はあるが、サッカーの場合、極めて単純で、ナショナリズムを発揚する場として、ずっと優れているといえる。
ところで、朝日新聞は、かつての本物の戦争の際においても、その報道ぶりは真に熱心だった。戦争こそ最大のイベントなのである。
朝日新聞OBの今西光男氏による『新聞 資本と経営の昭和史』(2007年6月、朝日新聞社)によると、「満州事変が勃発してからの、朝日新聞の販売部数の増加はすさまじかった」「翌三二年には、(中略)全社計一八二万四三六九部(三八万八七四一部増)という驚異的な部数増を実現したのである」(119ページ)とある。
単なるイベント以上に、読者には切実な問題があった。同書は「従軍している兵士の留守宅では、新聞は不可欠の情報源になった。肉親の安否を知るには現地の特報が載る新聞しかなかった。競うように新聞購読の申し込みが殺到した。まさに戦争は新聞にとって神風だった」(120ページ)と記している。
サッカーW杯の大報道が、戦争ほど部数拡大につながるとも思われないから、その理由はさらに別にあるのではないか。
それはナショナリズムでも「スポーツだけナショナリズム」であることがポイントだ。つまり、日本人の国家意識・民族意識をスポーツだけに吸収して、日本が直面している本当の危機である軍事的危機から目をそらす役割を果たしているように思えてならない。
中華民族主義という中国の侵略的ナショナリズムや、韓国のゆがんだ怨念ナショナリズムには、驚くほど寛容な朝日新聞は、わが国のささやかな防衛的ナショナリズムに対しては、これを危険視して積極的に非難する。
日本の若者も、渋谷のスクランブル交差点で大騒ぎをするエネルギーがあるなら、もっとまともな政治的行動の場でこそ、本物の大和魂を発揮してもらいたい。
■酒井信彦(さかい・のぶひこ) 元東京大学教授。1943年、神奈川県生まれ。70年3月、東大大学院人文科学研究科修士課程修了。同年4月、東大史料編纂所に勤務し、「大日本史料」(11編・10編)の編纂に従事する一方、アジアの民族問題などを中心に研究する。2006年3月、定年退職。現在、明治学院大学非常勤講師や、月刊誌でコラムを執筆する。著書に「虐日偽善に狂う朝日新聞」(日新報道)など。