太陽の下で働くことこそ、無上の喜び | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 

【産経抄】日本が植民地にならなかった理由 7月8日


 19世紀に入ると、欧米列強はアジア諸国を次々と植民地化していった。日本は絶体絶命の危機に立たされる。独立を守るために戦った幕末の英雄たちの物語は、繰り返し語られてきた。

 ▼ただ、元国土交通官僚の作家、竹村公太郎さんは、日本の地形と気候という視点から、もう一つの理由を挙げる。豊富な鉱物資源や広大な土地、奴隷といった、欧米人の欲望をかき立てるものが、見当たらない。

 ▼それどころか日本列島には、「欧米人を恐怖させる自然が嫌というほどあった」。確かに日米和親条約締結後の5年間だけでも、大地震が相次ぎ、コレラが蔓延(まんえん)し、江戸市中は大水害に見舞われている(『日本史の謎は「地形」で解ける 文明・文化篇』PHP文庫)。

 ▼13世紀の日本に襲来したモンゴル軍を追い払ったのも、神風と呼ばれる暴風雨だった。だからといって日本列島の過酷な運命に、感謝する気持ちにはとてもなれない。まして自然の猛威は、近年の地球環境の変化を受けて、荒々しさを増している。

 ▼列島の南海上を北上中の台風8号は、猛烈な風と大雨を伴う、7月としては過去最大級の台風だという。しかも梅雨前線の活発化と、速度の遅さという悪条件が重なっている。崖崩れや浸水の被害が、各地で最小限にとどまるよう祈るばかりである。

 ▼太陽を図柄としている日本の国旗は、「星」や「月」のデザインが目立つ世界の国旗のなかで、実は珍しい存在だ。竹村さんによると、夜になってから活発に活動する熱帯の人たちにとって太陽は、「苦しみと死の象徴」でしかない。それに対して日本人は古来、太陽の下で働くことこそ、無上の喜びとしてきた。灼熱(しゃくねつ)の太陽がことさら恋しく思える、1週間となりそうだ。