「対馬丸」からの切実な警告を生かせ | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 
西村眞悟の時事通信より。



No.981 平成26年 6月29日(日)

 


 二十七日の午後、東京から堺に帰りTVニュースを見たとき、
 天皇皇后両陛下が、
 沖縄の「対馬丸」犠牲者の慰霊碑に花を献げられ、続いて「対馬丸記念館」において、亡くなった子供達の遺影や遺品を見て回られるお姿と悲しみに満ちたお顔が放映されていた。
 思はず、手を両脇に伸ばし、両かかとを付けて起立した。

 昭和十九年八月二十二日夜、沖縄から長崎に向かう学童疎開船「対馬丸」が、アメリカ軍潜水艦の魚雷攻撃で撃沈され、
 学童七百八十名を含む民間人約千五百名が殺された。
 
 この悲惨、この無念!
 
 何故、大勢の学童が乗り込んでいる輸送船を、それと知りながらアメリカ軍は撃沈したのか。
 何故、大切な子供達が乗っている輸送船を、敵潜水艦から守れなかったのか。
 広島の爆心地にあるように、
「安らかにお眠りください、過ちは繰り返しませんから」
 で、済まされるものか!

 今まさに、政界の与党内では、自民と公明が、延々と、
我が国の自衛権は、「このケースでは行使しない」とか「ここまでは行使できる」とか議論しているので言いたい。
 
 論者は、シーレーンにおける輸送を如何にして守るのか。
 即ち、対馬丸の悲劇を如何にして繰り返させないか、
 この切実な問題意識を胸に秘めて議論しているのか。
 この問題意識が胸に燃えているならば、
 延々たる議論は無用、一挙に結論を出せるはずだ!
 
 しかし、彼らが結論を出せないのは、
 国家と国民を守るという切実な問題意識がなく、
 反対に、
 戦後への配慮(平和憲法信仰への配慮)、
 つまり、左翼と中国共産党への配慮があるからである。
 
 即ち、彼らは、五月十五日の安倍晋三内閣総理大臣の、
「集団的自衛権行使」の記者会見に、
直ちに反発した中共とそれに追随して懸念を表明した韓国と、
それに同調する我が国内の
「平和を唱えていれば戦争になっても構わない」
という確信的平和主義者、即ち、日本国家否定論者の群れ、
への配慮を「祖国防衛」に優先させているのだ。

 何故、対馬丸は撃沈されたのか!
 それは、我が国が、シーレーン上の制空権と制海権を奪われたからである。
 では、どの段階で奪われ、戦争の帰趨が定まったのか。
 それは、昭和十九年六月と七月である。
 
 まず、マリアナ沖で我が空母機動部隊が実質上消滅する。
 次に、サイパンが陥落し本土がB29の戦略爆撃圏内に入る。
 
 この時点で、我が国は、制空権と制海権を失い、
 対馬丸乗船の学童のみならず、
 日本全土の全ての学童の命を守る力を失ったのだ!
 即ち、この時から、
 戦場から遠く離れた我が国の無防備な婦女、子供そして老人を、何時、何処で、何人、如何にして殺戮するかという「虐殺の自由」をアメリカが獲得し、それを実行し始めたのだ!

 この大東亜戦争が、現在に残してくれている教訓を噛みしめ、
二度と再び、このような惨害を我が国家と国民にもたらさない体制を構築するために、「国家の自衛権」がある。
 この国民の命の懸かった目的の為に、「国家の自衛権」を如何に行使するか、という切実な課題がある。
 
 それを、何か!
 我が国家の自衛権には、行使できる自衛権と行使できない自衛権があるだと!
 しかも、行使できる自衛権にも、歯止めが必要だと!
 これで、延々と与党内議論を続けてきている。
 何をやっとるのだ!

 我が国の存続と不可分のシーレーンは、広大な海の上にある。
 それは、インド洋、マラッカ海峡、東西五千キロのインドネシア海域、南シナ海、東シナ海そして我が国を取り巻くパラオ、グァム、サイパンを含む西太平洋だ。
 
 この広大な海域の「航行の自由」に我が国の存立が懸かっている。即ち、ここが我が国の個別的自衛権行使の領域である。
 
 しかし、この広大な海域を一国で守ることは困難であり、また一国で守ろうとするべきではない。
 我が国と同じように、この海域の「航行の自由」に国の存続がかかる政治理念を同じくする周辺諸国との連携、即ち、インド、アセアン諸国、オーストラリア、ニュージーランド、台湾そしてアメリカとの連携と協働によって、この海域の「航行の自由」が確保されるべきだ。

 そして、この諸国との連携と協働の具体的なあり方こそ、 
 相互の集団的自衛権の行使なのだ!

 従って、集団的自衛権はこのケースでは行使できない、などという議論はもう公表するな。
 議論を続けてやりたいのなら、
 穴に潜ってやれ!
 
 君たちの議論は、連携を必要とする諸国には懸念と失望を与え、
 中共を喜ばすだけではないか。

 なお、この度店頭に並ぶ産経の「正論」8月号に、
 拙論「凄まじき自衛権を行使する国家たれ」
 を書かせていただいた。ご一読をお願いします。