『いちびった』文化 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 
【大阪調査隊】
産経ウェスト


「ココアシガレット」「ミニコーラ」「CoDoMo」
パロディー菓子を貫く「オリオン」の“ど根性”



オリオンの商品は、ほとんどがパロディー菓子(柿平博文撮影)


 駄菓子店で久しぶりに見つけた「ココアシガレット」。どこか大人の雰囲気が漂う濃紺の箱。子供のころ、中の棒状のラムネ菓子でタバコを吸うマネをして母親に叱られた思い出がよみがえってきた。箱を見ると、「オリオン」と会社名が書かれ、所在地は大阪市淀川区とある。大阪生まれのお菓子だったのだ。どうも元祖パロディー菓子のメーカーらしい。他にも携帯電話形の箱の「CoDoMo」、インスタントカメラにそっくりな箱に入った「食べルンですHi」…。数え切れない商品数。浪速の商人魂を感じ、ちょっと調べてみた。(池田美緒)

 「子供は大人のマネをする。子供の夢を形にしようというのが、創業からの精神。ただマネするだけじゃなく、一工夫して面白さを出す、遊び心が大切」。アイデアマン、高岡五郎企画本部長(59)は、こう語る。

 ココアシガレットが発売されたのは、創業した昭和23年。初期の箱のデザインは残っておらず不明だが、27年にピースが箱のデザインを変えて話題になると、すぐ取り入れて現在のようなデザインに。多いときは年間約1千万個、現在でも約400万個売り上げるという。

 いわば、元祖パロディー菓子というわけだ。オリオンがこれまでに開発、販売した菓子は約千種類に及ぶという。うち、7~8割はパロディー菓子。赤いプラスチック容器に入ったラムネ菓子「ミニコーラ」の元ネタは、コカ・コーラ。缶のプルタブのように引き抜いて開ける、ふたにこだわった。昭和53年の発売当時、小遣いではコーラを買えなかった子供の心をつかんだ。

 最近では、正論丸やボヤキナオールYなど、知名度の高い市販薬の名前をもじったパッケージにガムカプセルを詰めた「おくすりやさんカプセルシリーズ」。携帯電話の形をした紙箱入りのラムネ菓子「CoDoMo」。

ふたを開けると、アンテナが伸びる。STAP細胞発見のニュースには、新商品「なめてひらめくSTAR細胞ラムネ」を企画したが、一連の論文不正問題で断念した。

■アイデアの裏側

 オリオンには、パートを含めた従業員全員約40人を対象に、アイデアを募集する制度がある。採用されれば5千円がもらえる特典付きだ。

 企画会議は毎月1回、本社での会議のあと、居酒屋での「本番」があるという。企画部だけでなく、営業部や製造部の幹部や若手社員に、小西靖宏社長も参加する。

 会議はいつも決まって、飲み放題という。高岡さんは「一緒に酒を飲むと、会議とはノリが違う。やりたいこと、思い入れがストレートに伝わり、お互いを巻き込むことができる」。机を囲んだ堅苦しい会議では、パロディーのアイデアは出てこない。「稟(りん)議(ぎ)書」や課長や部長の「決済」も必要なく、その場で「即決」で決まることが多い。重要なことが二次会、三次会で決まることも。

■引き際の“美学”

 パロディー菓子といえば、平成23年訴訟問題に発展し、昨年和解した北海道、石屋製菓の「白い恋人」と吉本興業の菓子「面白い恋人」を思い出す。パッケージが似ていて商標権を侵害しているとして、「白い恋人」側が販売差し止めなどを求めていたが、パッケージデザインを変更して販売地域を関西に限定することで和解。判決にまで至っていないため、日本ではどこまでがパロディーとして許されるのか、未知数だ。

 オリオンにも、同じようにクレームはないのだろうか。本家からのクレームで消えたものも10種類ほどあったと明かしてくれた。

 ウィンナーのような袋の「シャレデッセン」は、イモムシ形のオレンジグミも良くなかったのか、製造中止したという。「迷惑がられたら素直にやめないかんと思うけど、パロディーはいけないことじゃない。

真面目ばかりじゃ、世の中成り立たんでしょ」と悪びれない。新商品はまず最小ロットで生産し、様子を見る。そのため半年間で消えていく商品もあるという。

■パロディーの力

 かつて、たくさん商品を置ける駄菓子屋が一般的だった時代は「少し味を変えれば新商品として店頭に並べてもらえた」。ところが、昭和末期から品数が限られるコンビニやスーパーでの販売が主流になると、そうもいかなくなった。設備投資して商品開発する大手メーカーに太刀打ちするため、「面白さ、楽しさ、見た目で買ってもらえるよう」パッケージに活路を見いだしたのだ。

 オリオンの商品は関西での人気が根強く、売り上げ全体の6割ほどを占める。

 《人の目を引き、あっと言わすことを常に考えているのが大阪人》と、5月25日に亡くなった評論家の大谷晃一氏は著書「続大阪学」(新潮社)で述べている。オリオンのパロディー路線は、大阪人の気質にぴったりなのだ。

 「大大阪イメージ」(創元社)などの著書のある大阪大学総合学術博物館館長の橋爪節也教授は「大阪人は良い意味で『いちびった』文化を楽しむ。実食できるミニチュアとして精巧に作られた雛寿司がある反面、道具屋筋の食品見本(サンプル)がキーホルダーなどとなってお土産グッズとして売られている。実用を超えた商売の街らしいオモチャである。ココアシガレットは、食べ物でありオモチャでもあるところに大阪らしい文化を感じる。当時の子供はそれをくわえ、少し大人びた気分でいちびっていた」と語る。

 ココアシガレットなどロングセラー商品では、知名度が信頼され、企業がキャンペーンや販促商品に採用する動きもある。

 「これからも大阪の会社として、元祖パロディーメーカーとして、ワクワク、楽しいものをつくりたい」と、高岡さん。浪速商人魂、ここにあり。