ガダルカナルからの撤退 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 

【子供たちに伝えたい日本人の近現代史】(62)ガダルカナル奪還できず



ガダルカナル島で行軍する日本軍。海からの補給もままならずに苦戦を重ね、撤退を余儀なくされる=昭和17年11月(共同)


南の島で飢えと病気に苦しむ

 日本では「ガ島」などと略されるガダルカナル島はニューギニア島の東約千キロの南太平洋にある。中心都市ホニアラは独立国「ソロモン諸島」の首都だ。

 平成20年、この島を訪れた牧野弘道氏の『戦跡に眠る日本人の魂』によれば、ホニアラの人口は6万人を超え、立派なホテルも建つ近代的都市となっている。

 だが昭和17(1942)年まで遡(さかのぼ)ると、栃木県とほぼ同じ広さの島に住むのは5千人ほどだった。全島はほぼジャングルに覆われ、わずかにヤシなどが栽培されていた。この「無名」の島が一躍、歴史上に登場するのはこの年の6月、日本海軍が飛行場の建設を始めたことからである。

 日本は太平洋での緒戦に勝利したものの、米国とオーストラリアの連合軍が大々的に反攻に出てくると恐れ、その拠点となるだろう南太平洋のソロモン諸島やフィジー、サモア方面の制海権、制空権を握ることに力を注いだ。

 5月3日にはまず、ガ島の北40キロ、フロリダ島湾内にある小さな島、ツラギを占拠した。英国が植民地とするソロモン諸島経営にあたる高等弁務官をここに駐在させていたほか、オーストラリア軍の水上機基地もあったからだ。

 基地はそっくりいただき、米豪軍へのにらみをきかせたが、さらにこの基地を守るための飛行場も欲しいということになる。物色の結果、ガ島北部の比較的平坦な地に設営することになった。

建設に当たったのは海軍の2つの設営隊約2600人である。大半は工事関係の軍属だった。ところが完成間近の8月7日、約1万9千の米海兵隊員を乗せた米豪連合軍大艦隊がツラギ、ガダルカナルを襲う。

 ツラギの日本守備隊をほぼ全滅させた後、1万あまりの海兵隊がガ島に上陸を果たす。軍属を除く陸戦隊など戦闘要員はわずか400人ほどという日本軍は必死に応戦したが、多勢に無勢で飛行場を放棄せざるを得なかった。

 連絡を受けた日本海軍は三川軍一中将率いる第八艦隊をガ島北の海域に向かわせた。8日夜、待ち受けた米豪艦隊とのいわゆる第1次ソロモン海戦で、重巡洋艦「鳥海」などの三川艦隊は米軍の「アストリア」など重巡4隻を沈め、制海権を握った。

 その上で陸軍は第十七軍の一木支隊(一木清直大佐)を上陸させ飛行場を奪還しようとした。18日、飛行場の東40キロに上陸した支隊900人は21日早朝、敵陣に白兵戦を試み、突撃を繰り返したものの、900人中約800人が戦死、ほぼ全滅した。

 日本軍はガ島の米海兵隊の数を約2千人と過小にみていた。「優秀な日本兵なら900人でも勝てる」と思い込んでいたという。

 この後、9月には川口清建少将の第十七軍川口支隊約4千、10月には蘭印(オランダ領東インド)攻略で名をはせた丸山政男中将の第二師団を上陸させるが、いずれも奪還には失敗する。

第二師団の場合、飛行場南のアウステン山の南麓を大きく迂回(うかい)して攻撃する作戦をとった。しかし雨のジャングルに足を取られながらの前進で、時間を大きくロスしたほか兵も疲弊し、守りを固める海兵隊にはね返された。

 一方、海でも11月13日からの第3次ソロモン海戦で敗戦を喫し、制海権を失ってしまう。

 このため米軍が新たに約3千の兵員や武器、食料を上陸させたのに対し、日本側は小さな駆逐艦や潜水艦で夜間秘(ひそ)かに補給する「ネズミ輸送」に頼らざるを得ない。将兵たちは、ジャングルの中で飢えやマラリアなどの疫病に耐えるしかなく、「まるで餓(ガ)島だ」と嘆かせた。

 この年の大晦日(おおみそか)、大本営はついにガダルカナルからの撤退を決定、翌18年2月から駆逐艦による救出作戦が始まった。

 3万余りの投入兵力のうち戦死・戦病死者は約1万9千人といわれる。その悲惨さもさることながら、ガ島を失ったことで、日本はいよいよ米国を中心とした連合軍の厳しい反撃を被ることとなった。(皿木喜久)

                   

ニューギニアの戦い

 ガダルカナルとほぼ同時期、日本軍が南方で力を注いだのが東ニューギニア(現パプアニューギニア)のポートモレスビー攻略だった。当時オーストラリア領で米豪連合軍の航空基地となっていたからだ。

 昭和17年9月、陸軍の南海支隊が北東海岸から山越えにポートモレスビーの北50キロにまで迫ったが、ガ島同様、糧食不足やマラリアへの感染などで苦闘、退却を余儀なくされた。この後北東海岸に上陸するなどした米豪軍約2万の逆襲を受け、18年1月にはブナの守備隊が玉砕、ニューギニア島からも撤退せざるを得なくされていく。