外国人実習制度 単純労働解禁に繋げるな
途上国の人々に技能や知識を身につけてもらおうという制度本来の趣旨を逸脱することがあってはならない。
法務省の有識者会議が現在68職種で認められている外国人技能実習制度に、「介護」分野などを加える案をまとめた。
在留期間も現行の最長3年から5年程度に延ばすよう求めた。政府は新成長戦略に見直し方針を盛り込み、関連法の改定作業に着手する考えだ。
少子高齢化に伴い勤労世代が激減することから、「働き手」を確保しようというのが政府の本音だが、「安上がりな労働力」として期待するのなら問題である。
そもそも、実習制度などを使って単純労働の事実上解禁に繋(つな)げるやり方は不適切だ。
政府は4月に、東京五輪の開催準備などで建設需要が急増しているとして、建設分野を緊急措置として認めたばかりだ。今回は介護のほか、林業、自動車整備業、店舗運営管理業、総菜製造業などを挙げた。なし崩し的に拡大していく印象をぬぐえない。なぜ、これらの職種を選んだのか、説得力のある説明も求めたい。
無制限に職種や人数を広げたのでは、外国人の大量受け入れと変わらない。大量受け入れには治安の悪化や生活習慣の違いに伴うトラブルなど課題も少なくない。
日本人の賃金水準が外国人並みに低下すれば、経済事情で結婚できない若者が増え、新たな少子化を招く悪循環ともなる。受け入れ人数も含め、一定の歯止め策が必要だ。
そうでなくとも、実習制度をめぐっては、賃金の不払いや過酷な労働を強いるといった人権侵害が相次いでいる。在留期間を過ぎても帰国しない例も聞く。受け入れを拡大するのであれば、企業に対する監視はもちろん、帰国まで責任をもって見守る態勢が欠かせない。不法残留者が増えることなどあってはならない。
政府は骨太の方針において「50年後に1億人規模」の人口目標を掲げようとしているが、無制限な外国人の受け入れ拡大政策とは一線を画すべきだ。
不安定な雇用環境に追いやられている若者は少なくない。労働力不足を考えるにあたっては、女性や高齢者を含め、日本人の活用を考えるのが先決だ。「外国人ありき」ではなく、総合的観点からの検討が求められる。