反対外国人の“問題行動” | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 
【関西の議論】
産経ウェスト


混乱招く「鯨・イルカ漁」反対外国人の“問題行動”
「入館拒否批判」に苦しむ“鯨の町”の切なさ



訴状の写しをくじらの博物館の窓口で渡そうとする原告の女性ら=和歌山県太地町


 和歌山県太地町の「町立くじらの博物館」への入館を拒否されたとして、捕鯨反対を訴えるオーストラリア人女性らが慰謝料などを求め和歌山地裁に提訴したことが大きな波紋を広げている。女性らは「人種差別であり、思想信条の自由を侵害する」と主張するが、同町では数年前から、「シー・シェパード」など反捕鯨団体の威嚇的な行動が目立ち、最近も外国人グループがカメラを構え館内を無断で取材するなど問題行動をとっていた。博物館側は「入館を断ったのは混乱を避ける措置で、決して人種差別ではない」と説明。今回の騒動は、反捕鯨団体に神経質にならざるを得ない町の苦悩を改めて浮かび上がらせた。

(小泉一敏)

 

いきなりの訪問

 訴訟を起こしたのは、イルカなどの保護活動を行っている団体代表のオーストラリア人女性ジャーナリストら。

 訴状によると、女性ら2人が2月9日、同館を訪れ、窓口で職員に入館の意思を告げてチケットを購入しようとすると、職員から「捕鯨反対の方は入館できません」と英語と日本語で記された説明カードを見せられた。その後、女性側が何度か説明を求めたが、入館を拒否されたといい、町に対し約670万円の慰謝料などを求めている。

 女性らは提訴翌日の5月14日、太地町のイルカ追い込み漁について批判的な映画「ザ・コーヴ」に出演した保護活動家のリック・オバリー氏や日本人弁護士を伴い、同館に訴状の写しを手渡しに来た。オバリー氏は原告ではなく、女性のサポート役だという。

窓口で対応にあたった林克紀館長は「反捕鯨の人は入れないことにしている。訴状は受け取れない。帰っていただきたい」と強い口調で返答し、写しは受け取らなかった。

 女性やオバリー氏はその後、博物館前で報道陣の取材に応じた。

 「もし、日本人がオーストラリアに来て、博物館の前で『日本人禁止』と書かれていたらどう思いますか」。女性はこう訴え、「私たちが実際に博物館で体験したものなのです。それに対する訴訟であり、認められるべきだと思います」と主張。オバリー氏も「基本的には観光客としてきているが、入館を拒否されている状態。憲法14条に反している」と訴えた。

 女性らは翌15日、海外メディアが集まる東京の「日本外国特派員協会」でも記者会見を開き、アピールした。

 

大型カメラで館内撮影

 ここに至るまでには“伏線”もあった。

 同博物館では2月初め、外国人ら約10人のグループが入館し、館内での撮影をめぐってちょっとしたトラブルがあったという。

 同館によると、日本人数人を含むグループは「観光で来た」といい、全員分のチケット代を払って入館した。同館1階は、入り口から前方に進めばクジラの骨格標本などの展示、左方向に行くとイルカがショーを行うプールがある。

 一行のうち、外国人らはすぐプールの方へ向かった。プールには、今年1月にイルカの追い込み漁で捕獲された、色素が作り出せないアルビノ(突然変異)の「白いイルカ」がいたが、そのイルカを外国人らは大きめのビデオカメラを取り出して撮影。さらに館内にいた日本人の来館者へのインタビューも始めた。

その様子を見た職員が館長に連絡。取材などの撮影には許可がいることから、林館長が「責任者はだれですか」と確認のため聞いたところ、一行はすぐに撮影をやめ、立ち去ったという。

 林館長は「館内での撮影は原則自由だが、取材となれば撮影趣旨の確認はしている」とし、「このときは、撮影の中止を求めたのではなく、あくまで説明を求めたものだった」と話す。

 また、女性らが訴状の写しを持って博物館を訪れた際も、意図的な行動が見られた。一行は撮影クルー3人を伴い、博物館の窓口で訴状を渡そうとして断られる様子などを撮影していた。その後、女性とオバリー氏が博物館を背に主張を述べる様子も動画に撮影。これらの動画は、翌日の日本外国特派員協会での記者会見で使うと説明していた。

 

シー・シェパードが“席巻”

 女性らが反対する同町のイルカの追い込み漁は、沿岸のクジラやイルカを湾に追い込んで捕る古くからの漁法だ。漁師たちは目視で群れを確認すると、船の側面に取り付けられた鉄管を金づちでたたき、「カン、カン、カン」という音とともに追い込んでいく。県知事の許可のもとで行われており、法的に問題はない。

 しかし、2010年に米アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した「ザ・コーブ」では、イルカの血で湾が赤く染まる様子がショッキングに描かれ、反捕鯨団体などを中心に海外から批判が高まった。

 追い込み漁が行われている太地町の畠尻湾には「シー・シェパード」のメンバーらが集まり、追い込み漁に携わる漁師たちを双眼鏡などで監視し、ビデオカメラで撮影する姿がみられるようになった。

同館は、その畠尻湾から約300メートルと目と鼻の先にあり、活動家らが追い込み漁の監視の傍ら、博物館まで歩いてくることもしばしばある。これまで大きなトラブルはなかったというが、活動家らが小型カメラなどで館内を撮影した動画をインターネットなどで流し、批判的に伝えたことはあったという。

 イルカ漁が始まると、こうした活動家が増えるため、同館は「捕鯨反対の方は博物館には入館できませんので、ご注意ください」という、英語と日本語で書かれたA4判の説明カード使って対応を始めた。カードを使うのは、英語が話せる職員が少ないためだという。

 林館長は「去年の秋頃から活動家らの数が増えたように感じた。館内での混乱を避けるため、こうした対応を始めた。決して人種差別ではない」と強調する。 カードを見せるのは、イルカ漁で活動家が増える9月から2月ごろまで。その他の時期は原則、入館を断るようなことはないという。

 そもそも有名な活動家でなければ、見た目で「反捕鯨」を判断することは困難で、これまで外国人というだけで入館を拒否してきたわけではない。本人の申告で「観光目的」とするなら断ることはないという。

 「本来なら博物館としてそんなことはしたくない。しかし、太地の文化と漁業は守らなければならない」(林館長)。同町は苦渋の対応を続けている。