連載:ニッポンの防衛産業
ZAKZAK 夕刊フジ
韓国軍への貸与が軽くあしらわれたのは残念 弾薬1つに誠意込める日本
韓国軍に提供された5・56ミリ普通弾(陸上自衛隊提供)
大きさにすれば、大体、単4か単3電池ほどの小口径弾であるが、この中には10年単位の試行錯誤の結果や、スキルが込められていることを、前回までに紹介した。
「それくらいは、どんな物でも同じ」と思われるかもしれない。だが、旭精機工業で作っているのは「弾薬」という特別なものであり、それは他に類を見ない事業なのである。
仮に、この小さなアイテムが何か問題でも起こそうものなら、一瞬にして社会問題となる。もし、自衛隊で1つでも紛失すれば、部隊総出で捜索し、見つかるまで訓練は中止することになる。
それだけに、納入時からなかったのか、自衛隊内でのことなのかは重要だ。だからこそ、品質のみならず数量についても非常に神経質になる。確認に次ぐ確認、工程ごとに質量を計り、目視での確認作業もその度に行っている。何と同社では最後に、X線検査まで導入しているのである。
それまで、散々数えているのに、最終確認としてX線に弾薬の入った箱を通してチェックするのである。数が合わなければブザーが鳴るが、これまで一度も鳴ったことがないという。
こうして、いくつもそろえられた検査機器は企業努力の範疇(はんちゅう)であり、多くの国内企業が同じようなことをしているのだ。
「最初から足りなかったということは、絶対にあり得ないシステムを作ってきました」
同社で働くすべての人にとって、自分たちが担っているのは国民が安心して暮らすための兵器であり、国民が不安に陥るようなことがあってはならないという共通認識がある。このような感覚は諸外国にはないものだ。
難しいテクニックなどではない「同じ気持ち」で「誠実に」作業にあたる能力が日本の強みなのである。一方で「逆に海外ではこの努力は評価されないでしょうね」と、関係者は苦笑する。
努力や誠意が分かってもらえないといえば、南スーダンにおける韓国軍への5・56ミリ弾1万発の貸与もそうだ。韓国軍指揮官の苦渋の選択を大統領は否定し、指揮官も重い処分を受けたと聞く。
しかし、日本にとってはたった1つでも社会的責任を負っている誠意の塊であり、それを軽くあしらわれたのは残念だ。
この出来事から感じたのは、日本の小銃弾は複雑な国内事情に耐えながら共通弾として国連や友好国の役にも立てるということである。今のところ装備移転の議論には乗っていないが、共同開発も含め可能性を秘めているのかもしれない。
■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)、「武器輸出だけでは防衛産業は守れない」(並木書房)など。