実態の伴わない膨張はいずれ破綻する。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 

沈没で消えた海洋先進国への夢。東海大学教授・山田吉彦



 中国が2012年11月の共産党大会で、「海洋強国」の建設を打ち出したことはよく知られていても、韓国がその年の末、それに追随するように海洋進出を目指して5000トン級の海洋調査船の建造を発表していたことは、あまり記憶されていない。韓国国土海洋部(現海洋漁業部)はその際、「新しい調査船が就航すれば、英国、フランス、日本などの海洋先進国と肩を並べることになる」という意気込みをみせていた。

 ≪実態超え膨張した韓国業界≫

 調査船建造だけではない。韓国造船業界は、日本を抜いて世界第一の建造量を誇るまでに成長し、代表的な国際港であるプサン港はコンテナの取扱高で、神戸や横浜などの日本港湾を凌駕し、世界第5位の港となっている。

 韓国の海を守る韓国海洋警察庁は、人員数約1万1000、保有警備船艇数は320隻ほどと規模において、日本の海上保安庁に比肩し得るほどになっている。

 海軍は、世界の海に乗り出せる「大洋海軍」に変貌すべく、20年までに世宗大王級駆逐艦、独島級大型揚陸艦を中心にした機動艦隊の創設を目標に掲げる。ソマリア海賊への対処でも、日本の海上自衛隊に先んじてインド洋に駆逐艦を派遣して国際貢献姿勢を見せるなど、世界をにらむ海洋国家に発展していくかに見えた。

だが、夢は急速に萎みだしている。そもそも海洋国への発展というのが虚構に近かった。

 海軍は装備増強とは裏腹に、独島級大型揚陸艦のレーダーに致命的な不具合が発見されるなど、機器やそれを扱う技術の未熟さがかねて指摘されている。10年に黄海で海軍哨戒艦「天安」が北朝鮮の魚雷により撃沈された事件でも、海軍が放置した機雷に接触した可能性が高いという研究結果を韓国の学者が発表している。

 ≪日本まね追いつき追い越せ≫

 韓国は日本を模倣することで、安全保障も含む海洋力の強化を図ってきた。だが、実態の伴わない膨張はいずれ破綻する。

 世界一を自任する造船業も、今年4月の船舶受注量は前年同月比84・8%減で、中国、日本に抜かれて3位に後退した。世界の船舶受注量が同48・1%減少している中で韓国の落ち込みがとりわけ激しいのは、これまで目先の利益を重視し単一船型の建造を進め、海洋構築物建造などの技術革新を怠ったためだといわれる。

 実際、昨年から中小の造船業者の倒産が続出している。鉄鋼、重機、機関の製造など重工業の集大成ともいえる造船業の衰退は、経済全体に波及しそうだ。

造船や海運を中心とした海洋業界は、経済発展、国際化の中枢を担ってきた半面、昨年、現代重工業、大宇造船海洋などが相次ぎ汚職で摘発されるなど、利権・腐敗の温床ともなってきた。

 死者・行方不明者300人を出す大惨事となった、韓国のフェリー「セウォル」号の転覆事故は、現在の韓国の海洋業の歪みを象徴し、その「落日」を意味しているようにすら感じられる。今回の事故では、それほど韓国の未熟さばかりが際立つのである。

 セウォル号の船体の改造、安全航行設備の不備をめぐっては、韓国船級協会が実施した船舶検査の不正確さが指摘されているし、事故の主因とされる過積載の問題では、積み荷の管理を行う港湾当局や韓国海運組合と船会社との癒着が取り沙汰されている。

 ≪朴政権で海洋マフィア復活≫

 また、海洋警察庁が行っていた臨船検査についても、救命いかだの未整備を見逃すといった、目に余る手抜き検査が判明している。韓国海事業界の利益優先主義は、船舶の安全運航に対する意識を希薄化させたばかりか、監督すべき官庁や公益組織も取り込んだ「海洋マフィア」と呼ばれるグループの形成にもつながった。

 朴槿恵政権は昨年3月、海事行政の担当を、李明博前政権が創設した国土海洋部から旧来の海洋漁業部に戻した。これで海洋マフィアが勢いづき手抜き監督を助長した可能性も指摘される。

 海洋警察庁もそうした一角を占めており、セウォル号事故では、海洋警察庁に対する非難の声がやまない。救助の模様をテレビの映像で見ていると、安易で場当たり的な救助活動が目立ち、指揮命令系統の機能不全は一目瞭然だ。制度、装備は日本の海上保安庁に準じていても、その運営、運用能力の差は覆うべくもない。

 海を接する隣国の海洋警察力の未熟は取りも直さず、わが国の沿岸警備体制を強化しなければならないことを示唆している。中国、北朝鮮というわが国を脅かす国に対する安全保障のパートナーとしての、韓国の位置付けも見直さなければならないだろう。日本海、東シナ海での日本の海洋警備力の再構築も不可欠である。

 造船業に端を発した韓国経済の失速が、わが国の経済に影響を及ぼしてくることも明らかだ。セウォル号事故を機に韓国の海洋力の実態を把握し、わが国への悪影響を回避すべき対策を講じておくことは喫緊の課題である。(やまだ よしひこ)