『古事記』は現代人に身近なもの | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 

【書評】
『国民の神話 日本人の源流を訪ねて』産経新聞社著 評・浅野温子




■古事記に現代社会との接点

 本書では『古事記』ゆかりの地を丹念に取材して歩きながら、神々の物語の背景を一つ一つひもといてくれます。

 例えば、『古事記』では天上界にあるとされる天岩屋戸が、今の日本各地に多数存在すること。そのいずれもが太陽と関係の深い場所にあることから、太陽神=天照大神が日本人の中に定着したこと。

 また、砂鉄の産地で、大雨のたびに赤い濁流となって暴れる出雲の斐伊川が、ヤマタノオロチのモデルだとする説、コノハナサクヤビメが炎の中で出産する「火中出産」の習俗が、奄美大島などに由来するという説などを、関係者の証言を織り交ぜながら丁寧に解説してくれています。

 古(いにしえ)と今との距離を縮め、1300年前に生まれた『古事記』に現代社会との接点を見いだそうとする試みに、深い共感を覚えながら読ませていただきました。

 私自身、この十数年『古事記』の世界と取り組み、そこに現代に通じるテーマを求めてきました。2003年、私は『古事記』に独自の解釈を加えて脚色し、一人語りする舞台『浅野温子 よみ語り』の活動を始めました(2010年5月、現タイトルに)。

 『古事記』というと、少々難解なイメージがあるかもしれませんが、実際に読んでみると、そこに描かれているテーマは、「一目惚(ぼ)れの恋」や「夫の浮気」「妻の嫉妬」、さらに「いじめ」や「兄弟の仲違い」など、驚くほど現代人に身近なものばかりです。神々も我々(われわれ)人間と同じように失敗を繰り返しながら、そのつど立ち直っていることを教えてくれるのです。

『よみ語り』で努めてきたのは、『古事記』のダイジェストや解説的な語りではなく、いかに今の時代にシンクロする魅力的な物語として甦(よみがえ)らせて、皆様の前にお出しするかということでした。

 この『国民の神話』も、単なる『古事記』の解説書や案内ガイドではなく、『古事記』を何倍も楽しく味わうための味付けや盛り付けがふんだんに凝らされていて、まさに“オイシイ一冊”です。『よみ語り』とともに、くれぐれもお見逃しなく。(産経新聞出版・本体1300円+税)

 評・浅野温子(女優)