太陽光発電優遇は「天下の愚策」 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 

【九州から原発が消えてよいのか 第7部 代替電源(10)】ベストミックス 
太陽光発電優遇は「天下の愚策」 脱原発に流されず国家百年の計を





「欧州をロシア産ガス依存から解放するため、アメリカ産(シェール)ガスの輸出を容易にしたい」

 米大統領のオバマは3月26日、ブリュッセルの欧州連合(EU)本部で、EU大統領(欧州理事会議長)のファンロンパイらと会談後、こう述べた。

 ロシアによるクリミア併合を含むウクライナ危機にあたり、天然ガスと原油の3割をロシアからの輸入に依存するEU諸国の動揺を沈め、欧米が結束して「対露包囲網」を築く狙いが透けて見える。

 だが、ガス液化・輸出設備が整い、米国産シェールガスが輸出可能となるのは早くとも2017年になる。EU諸国の当面の危機には役立たない。

 その証拠に、米EU首脳会談から2日後の28日、ドイツの経済・エネルギー相であるガブリエルは「ロシアから輸入している天然ガスの実用的な代替は見当たらない」と断じている。

 必要なエネルギーを合理的な価格で安定的に確保する。そしてそのリスクをいかに最小限にとどめるかという「エネルギー安全保障」はどの国にとっても極めて重要な課題である。その現実を前に、欧米の結束は決して一枚岩ではない。

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 人口の爆発的な増加と中国やインドなど新興国の経済発展に伴い、世界のエネルギー消費量は膨らみ続けている。

 国際エネルギー機関(IEA)によれば、2030年の世界のエネルギー需要(石油換算)は、2000年の1.6倍の159億7700万トンに達する。この将来を見据え、各国はエネルギー資源争奪戦を繰り広げている。

 争奪戦のプレーヤーとして、最も派手に動いているのが中国だ。国有会社の中国石油天然気集団(CNPC)や中国石油化工(シノペック)を通じて、イラク、イランなど中東だけでなく、エジプト、リビア、モザンビーク、スーダンなどでも油田やガス田の権益を買いあさる。頓挫したプロジェクトも多いが、触手は中南米にも伸びる。

アフリカ進出に際して、中国は現地政府に大規模な経済援助を実施するだけでなく、抗マラリア薬を大量に無料でばらまくなどあらゆる工作に余念がない。

 中国がなりふり構わず資源・エネルギー獲得に走るのには理由がある。

 IEAの2030年の推計によると、中国は世界のエネルギー需要の23%を占める最大のエネルギー消費国となる。この段階の自給率は石油が18%(2010年は47%)、天然ガス58%(同90%)までに落ち込むとみられる。人口13億5000万人の飽くなき欲求を満たすには、あらゆる手段を使っても世界中の資源を押さえにかかるしかない。

 中国は極端な例だといえるが、どの国もエネルギー安全保障に頭を悩ませる。エネルギーは現代社会の血液であり、国民生活を守り、経済基盤を維持・発展させるには欠かせない存在なのだ。

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 日本のエネルギー自給率はわずか4%しかない。激しさを増す争奪戦で最も大きな影響を受ける国だと断じてよい。それだけに、どういう種類のエネルギーを、どれだけ使用するかというエネルギーのベストミックスを正しく設定することはエネルギー戦略上不可欠となる。

 電力は石油や天然ガスなどの1次エネルギーの45%を消費する。その電源構成をみると、平成22年度は原子力と天然ガス火力がそれぞれ30%弱を、石炭火力が総電力量の25%を占めていた。

 ところが、23年3月の福島第1原発事故を受け、原発は相次いで停止に追い込まれたため、24年度の総発電量に占める原発の比率は1.7%に低下した。これを天然ガス火力(42.5%)と石油火力(18.3%)が補っている。

何とか電力不足による連鎖的な大停電(ブラックアウト)も起こさず必要な電力を確保できているが、原発を再稼働できない国情を国際社会に見透かされ、天然ガスの輸入価格は急騰した。BP社によると、2012年の100万Btu(英国熱量単位)当たりの平均価格は16.7ドルと、独11.0ドル、米2.7ドルに比べ大幅に上昇している。

 これがアベノミクスにも暗い影を落とす。貿易収支は今年2月まで20カ月連続赤字となった。原発停止により増加した燃料費は3.8兆円(平成25年度)に達した。九州電力をはじめ電力各社は軒並み巨額赤字を抱え、傾きかけている。

 原発停止により、日本は世界各国のエネルギー争奪戦に「駒落ち」で挑まざるを得ないというのが実情だ。価格交渉力を取り戻すには、原発を早急に再稼働させ、電力需給に余裕を持たせるしかない。

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 ただ、一部原発が再稼働したとしても、震災前の電源構成に戻るとは考えにくい。

 再稼働の鍵を握る原子力規制委員会は、福島第1原発と同じ沸騰水型軽水炉(BWR)の安全審査には強い難色を示している。加圧水型軽水炉(PWR)にしても、北海道電力の泊原発や関西電力の大飯原発などについて地盤や基準地震動などを次々に問題視してなかなかゴーサインを出そうとはしない。

 また、昨年7月には、原発の運転期間を原則として40年に制限する改正原子炉等規制法が施行された。原発の新・増設がない限り、現在48基ある国内の原発(廃炉が決まった福島第1原発6基を除く)は、徐々に減少することになる。

 48基のうち半数の24基を占めるPWRが順次再稼働しても、原発の発電量の比率は、震災前の30%弱から10~15%に低下する。代替電源問題は避けて通れない。

 では、どういう電源構成がベストなのか。

 もっとも期待されているのは、つい最近まで「過去のエネルギー」とみられていた石炭だろう。

石炭は、価格が低位で安定している上、埋蔵量が豊富で日本を含む世界中に広く分布しており、安全保障上のリスクを最小限にとどめることができる。

 加えて最新鋭の石炭火力発電は大幅な技術革新により、ほとんど公害を出さず熱効率も高い。

 実際、九電が松浦火力発電所(長崎県松浦市)に出力100万キロワットの最新鋭火力の増設計画を発表するなど全国の電力会社は「石炭回帰」に動き始めた。

 天然ガス火力も、ガスタービンと蒸気タービンを同時に動かし、熱効率を飛躍的に向上させた「コンバインドサイクル」と呼ばれる最新鋭機が登場している。

 中東に偏在する石油に比べれば、輸入先の選択肢も広い。

 ロシアの国営企業ガスプロムの社長、アレクセイ・ミレルは、2012年10月のテレビ番組で「欧州の消費国と同じ原則でアジア太平洋諸国と活動する。日本が必要としている量のガスを供給できる」と語った。ウクライナ情勢により、深まりつつあった日露関係は膠着(こうちゃく)状態に陥っているが、再開すれば、日本のエネルギー事情は一変する。

 原発再稼働によって日本側が価格交渉力を取り戻せば、現在のような価格高騰の悩みも薄らぐ。

 既存原発の再稼働に加え、将来の電源確保の観点から第4世代原発の開発も急がれる。

 トリウムとプルトニウムを燃料に使う「トリウム溶融塩炉」や、水の代わりに安定物質のヘリウムガスを冷却材に使う「高温ガス炉」など、安全性能と効率を高めた新しい原発の研究は資源小国・日本に不可欠といえる。

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 では、再生可能エネルギーはどうか。

 もっとも有望なのは、地熱発電とバイオマス発電だろう。

地下の蒸気を使う地熱発電と、鶏糞や廃材などを利用するバイオマス発電は、どちらも小規模ながら安定した電源を供給できることが大きな魅力となる。特にバイオマスは、畜産や農林業が盛んな地域の悩みの種だった家畜糞などを電気エネルギーとしてリサイクルできる。欧州のように村落単位での導入が進めば、「地産地消型」の電源として非常に有望だといえる。

 日本は海洋国家だけに洋上風力発電への期待も大きい。安定性やコストなどに多少の難はあるが、島嶼部などへの電力供給には非常に有効だといえ、将来性は十分ある。

 とはいえ、これら再生可能エネルギーは出力が小さい上、コスト低減にも限界がある。とてもではないが、原発に代わりえる電源とは言えない。

 一方、ここ数年もっとも注目されている再生可能エネルギーである太陽光発電はどうか。結論から言えば、代替電源としてまったく役に立たない欠点だらけの「お粗末電源」としか言いようがない。

 最大の欠点は「お天気まかせ」で発電量がまったく安定しないことだ。悪天候や夜間は供給不足となり、晴天時は過剰供給により、大規模停電の懸念が常につきまとう。耕作放棄地などに続々と建設が進む大規模な太陽光発電施設「メガソーラー」による景観破壊も深刻化している。

 23年8月、菅直人が首相退陣と引き替えに成立させた再生エネルギー特別措置法により、太陽光発電は1キロワット時当たり42円という破格な買い取り価格を設定され、“太陽光バブル”を引き起こした。その後、徐々に引き下げられたとはいえ、26年度も34.56円となお高い。電力の安定供給に寄与しないどころか、電力不安の要因となり、高額な買い取り料は、一般国民に電気料金の形で転嫁されることになる。民主党政権の置き土産である「天下の愚策」は早急に改めるべきだろう。

 自民、公明両党の作業チームは4月3日、原発を「重要なベースロード電源」と位置づける新たなエネルギー基本計画の政府案を了承した。政府は来週にも閣議決定する。

 ただ、将来目指すべき電源構成比率は「3年以内に決定する」と先送りした。再生可能エネルギーの導入目標についても、以前の計画で掲げた「約2割」を参考数字とした上で「これまでの目標をさらに上回る水準を目指す」とした。不安定な太陽光や風力発電が際限なく増えれば、電力の安定供給を揺るがすことになる。

 エネルギーは国家百年の計だ。「太陽光で脱原発」などという甘い空気には決して乗らず、百年後の未来を見据えたベストミックスを策定することが政権の責務だと言えよう。(敬称略)

=第7部終わり

 この連載は小路克明、津田大資、田中一世、奥原慎平が担当しました。

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エネルギー問題の記事を読んでいていつも思うのだが、必ずといって良いほど「メタン・ハイドレート」が無視されているのである。

「メタン・ハイドレート」を国家プロジェクトにせよ!