それでも捕鯨守る 和歌山・太地の信念 調査捕鯨 31日判決
産経ウェストミンククジラの形態測定調査(一財・日本鯨類研究所提供)
南極海での調査捕鯨をめぐり、オーストラリア政府が日本政府に中止を求めた訴訟の判決が31日、オランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)で言い渡される。ICJは一審制で控訴は認められておらず、判決には従う義務がある。日本の捕鯨政策への影響は大きく、古式捕鯨発祥の地であり、「捕鯨の町」として知られる和歌山県太地町では「日本に不利な判決の場合、追い込み漁や小型捕鯨にも影響が及ぶのでは」と不安の声が広がっている。
「調査捕鯨の次は小型捕鯨、そして追い込み漁がターゲットになりかねない」。今回の訴訟で争われている南極海の調査捕鯨と太地町の小型捕鯨は直接関係はないが、判決を控えて町内の緊張感は高まり、三軒(さんげん)一高(かずたか)町長は厳しい表情でそう懸念を示す。
同町は江戸時代から約400年にわたって捕鯨を続けてきたが、近年は反捕鯨団体「シー・シェパード」のメンバーによる悪質な嫌がらせや漁の監視が続く。1月にキャロライン・ケネディ駐日米大使が追い込み漁を批判した際には太地町漁協に1日100件もの抗議のファクスが殺到した。
三軒町長は「裁判結果が太地に影響することはないと思う」としながら「捕鯨は日本の文化。国内で一致団結して守っていきたい。そういう意味では重要な判決だ」と語気を強めた。
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水産庁によると、国内で小型捕鯨を行っているのは太地町や北海道網走市、千葉県南房総市など5カ所。大型捕鯨については1982年に国際捕鯨委員会で商業捕鯨モラトリアム(一時停止)が採択され、87年度漁期を最後に商業捕鯨が停止された。日本政府は再開に向けて南極海や北西太平洋で調査捕鯨を実施している。
太地町漁協の幹部は「調査捕鯨は決められたルールに基づいて行っており、訴えること自体がおかしいと門前払いされるのが望ましい」と強調。その一方で、「捕鯨業界はとても小さく、(判決次第で)どこか1カ所が崩れてしまうと怖い」と顔を曇らせる。
同町には追い込み漁を生業とする漁師が24人、泳ぐ鯨類を船から銛(もり)で狙う「突きん棒漁」の組合員が約30人おり、小型捕鯨には9人が携わる。町内の漁協直営スーパーにはクジラやイルカの肉や加工食品が並ぶなど、鯨は今も生活の糧であり、貴重なタンパク源だ。
「太地では捕鯨が暮らしに根付いている。クジラを取ったら何も残らない」と漁協幹部はつぶやく。
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敗訴すれば日本の捕鯨政策は大きな転換を迫られる可能性があるだけに、裁判の行方には捕鯨に関わる他の自治体も注目する。
8月下旬ごろにツチクジラ漁を行っている網走市の担当者は「判決は直接関係はないが、結果によっては今後大なり小なり影響は出てくると思う」と懸念。南房総市農林水産課の担当者も「少なからず影響があるかもしれないが、粛々と(捕鯨を)守っていきたい。問題ない判決が出ると信じている」と話す。
一方、当事者である水産庁は「日本政府の見解は裁判を通して主張してきた」とし、判決の日を淡々と迎える。