【朝鮮半島ウオッチ】
北朝鮮の新型ロケット砲「KN09」の威力アップ 韓国軍は強い危機感
平壌の金日成広場で行われた軍事パレードに登場した短距離弾道ミサイル「スカッド」=2013年7月(共同)
金正恩氏のミサイル発射とロケット砲による挑発が続いている。2月下旬に始まった相次ぐ発射はすでに4回で、なかでも新型300ミリロケット放射砲「KN09」は韓国の新たな脅威となった。いずれの発射も事前の航空禁止区域設定がない奇襲作戦で国際法違反、安保理決議違反である。一部は日本の防空識別圏内に着弾し成田発の中国民航機とのニアミスも起こしている。3月中旬からは米韓軍による野戦機動演習も始まり米原子力潜水艦が出動するため、北朝鮮側からのさらなる危険な挑発が懸念されている。(久保田るり子)
新型ロケット砲「主体100号」はとんでもない威力
2月21日、27日、3月3日、4日と続いた北朝鮮のミサイル、ロケット砲発射は150キロ、220キロ、500キロと距離を伸ばしただけでなく、新型ロケット砲「KN09」(北朝鮮名は「主体100号」)を2度も発射するなど、挑発の度合いを強めた。
新型「KN09」は300ミリ放射砲で2月21日が初めての成功。これまでの240ミリに比べ威力が格段と上がり、DMZ付近に配置すれば平沢・烏山の米軍基地から韓国中部の大田まで射程に入ってしまう。韓国軍は北朝鮮が「KN09」の射程と命中精度を引き上げきており、すでに100基以上を保有していると推定。「誤差は50メートル前後で事前に探知しづらく、発射3-4分で最大射程に到達する能力を持つ」(韓国・聯合ニュース)
放射砲は短距離ミサイルより韓国の安全保障にとっては脅威度が高い。ミサイルは発射兆候が捕捉されるため迎撃が可能だが、放射砲は兆候の把握も迎撃も困難なのだ。
北朝鮮は「KN09」を21日、発射に成功し自信を付け、3月4日に4回も発射した。韓国紙によると、「KN09」は中国がロシアから導入し改良した「WS1B」に似ているほか、ロシアの衛星誘導機能を備えているとの分析もあるという。
一連の挑発の狙いについて北朝鮮の軍事戦略に詳しいジャーナリストの恵谷治氏は「まず米韓合同軍事演習への牽制(けんせい)だ。昨年はこの時期、休戦協定の白紙化など連日の舌戦で緊張を高めたが、今年は実戦でやる気を示している。また、新型ロケット発射のやりかたをみると、張成沢氏粛清後の軍部は統制が取れているようだ。今後、軍部がより強硬策を取る可能性もある」と分析している。
東倉里のミサイル発射台の拡張工事、まもなく完成でICBM発射可能に
2月27日は「スカッド」とみられる弾道ミサイル4発、3月3日は射程500キロの「スカッドC」か改良型「スカッドER」(射程700キロ)を2発発射した。スカッド発射は2009年7月以来の5年ぶりで、弾道ミサイル発射を禁じた国連安保理違反であることは明らかだ。
しかし北朝鮮は戦略軍報道官談話で「国と人民の安全を守り、地域の平和を守護する正義の自衛的行動」(5日)などと正当化しただけでなく、「無謀な挑発が過ぎる場合は、われわれの防御型ロケット発射訓練が瞬時に最も威力のある攻撃型ロケット発射という報復につながる」と強く反発、威嚇に出ている。
米国の北朝鮮専門ウエブサイト「38ノース」の報告書によると、北朝鮮は黄海に面した東倉里にある長距離ロケット基地の発射台の拡張工事の完成が間近で、工事は早ければ今月中、遅くとも4月には終了する。2012年12月に発射された「銀河3号」(テポドン2号)は全長約30メートルだったが、東倉里の新たな発射台ができれば全長50メートルの大型ロケット発射も可能になる。
「テポドン2号」は発射に成功しており、新たな発射台の準備は米国に到達可能な「テポドン3号」の完成が前提。2月~3月にかけての相次ぐミサイル、ロケット発射が次のICBM発射の前兆である可能性もある。
挑発は対日攻勢と南北融和の懐柔策と平行で日韓に圧力
今回のミサイル・ロケット砲の挑発のもうひとつの特徴は、3年ぶりの韓国との南北離散家族再会(2月20日~25日)や、1年7カ月ぶりの日本との日朝赤十字会談(3月3日)の最中に行っていることだ。
いずれも金正恩体制が南北関係、日朝関係で融和姿勢に舵を切った節目だっただけにタイミングが目を引いた。結局、軍事示威の影響を受けることなく南北の離散家族再会は行われ、日朝協議も政府間の非公式協議まで行われた。
日朝の非公式協議について関係筋は「北朝鮮は明らかに前向きで日朝を進めようという意志が感じられだ」という。張成沢亡き後の金正恩体制は、中枢を軍部が握っていることは確実で、一連の動きは軍主導による新外交とみることも可能だ。
スカッドミサイル(AP)