「空の玄関口」で“日本の聖書”一読を。
関空ホテル客室に「古事記」現代語訳版備え付け。
産経ウェストホテル日航関西空港の客室に備え付けられた「古事記」を手にする高橋信行総支配人=大阪府泉佐野市
海外旅行の前夜に、日本の神話にふれてみませんか-。関西国際空港内の「ホテル日航関西空港」の客室全576室に、キリスト教の聖書、仏教の仏典に加え日本最古の史書「古事記」の現代語訳版が備え付けられた。「関西の玄関口」に建つ同ホテルは外国人観光客の利用が多いが、格安航空会社(LCC)の拡大に伴い日本人利用客も増加傾向にあり、同ホテルでは「ご利用の際には日本の“聖書”をぜひ手に取ってみてほしい」としている。
「神話」のそばの空港
空港からわずか30キロ。国産みの神話で、日本列島の中で最初に創造されたとされる島が、大阪湾の向こうにくっきりと浮かぶ。
「この景色があるからこそ、ぜひとも古事記を導入したかった」。同ホテル総支配人の高橋信行さん(45)は客室から淡路島を眺め、そう振り返る。
高橋さんが古事記に関心を持ったのは平成24年2月、当時住んでいた千葉県内で開かれた建国記念の日のイベントだった。
「現在の政治制度の基礎が描かれている」と語る作家で慶応大講師の竹田恒泰氏の話に興味を持ち、竹田氏が現代語訳した古事記を購入。一気に読了した。
竹田氏が理事長を務める竹田研究財団(東京)は、同年の古事記編纂(へんさん)1300年を記念した事業で、古事記を全国のホテルに無料配布する事業を実施していた。高橋さんが関空に赴任した24年秋には第1期の配布がすでに終了していたが、高橋さんはその後も「是非本を置かせてほしい」と問い合わせを続け、昨年10月に提供を受けた。
関西観光にもプラス
同ホテルの利用は4割弱が外国人観光客で、日本人利用客も早朝・深夜の発着便に合わせた短期滞在がほとんど。宿泊客が古事記を熟読する時間は少ないが、常連客のビジネスマンらからは「予想以上に面白かった。続きを読みたいが、販売はしないのか」などと問い合わせが相次いでいる。
高橋さんは、古事記の導入が観光振興にもつながると訴える。初代神武天皇から33代推古天皇まで古事記に記された皇族の歴史は、舞台のほとんどが奈良・大阪。日本最大の前方後円墳、大山古墳(仁徳天皇陵、堺市)など史跡への関心も高まる。「例えば東北から沖縄への乗り継ぎで関空を利用したお客さまが、次は大阪を旅行したい、と興味を持つきっかけになれば」。そう期待を寄せる。
同ホテルでは今後、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録された「和食」をPRするイベントなども開催する方針だ。高橋さんは「関西の入り口に立つホテルの役割として、歴史に根ざした地域の魅力を紹介していきたい」と意気込んでいる。