武器商人と渡り合えるのか? | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 



護憲派とは違った視点から見た装備品輸出への不安。
武器商人と渡り合えるのか

連載:ニッポンの防衛産業
ZAKZAK 夕刊フジ


菅官房長官は昨年3月、F35の日本企業による部品製造への参画を、武器輸出3原則の例外とする談話を発表した


「本当に大丈夫なのか?」

 昨今、にわかに盛り上がっている武器輸出や共同開発について、少なからぬ関係者から異口同音に漏れる言葉だ。

 しかし一方で、武器輸出3原則の緩和が防衛産業を救うがごとく報道されていることや、政府の前向きな方針もあり、ネガティブな姿勢は見せにくい。当欄では繰り返し警鐘を鳴らしているものの、どうもこの件がわが国にありがちな「空気」の問題になっている気がしてならない。

 防衛装備とは関係ない話だが、今年、逝去された評論家の遠藤浩一氏が、かつて日本企業がこぞって中国進出に血道を上げていたころ、戦前日本のソ連に対する不安感と満州に抱いた幻想という、あの熱狂を誰も止めることができなかった空気に似ていると解説していたことがあった。

 「中国に活路を見いだすのだと笛や太鼓で躍り出た果てにあったのは何だったか?」と強い語調で語っていたことを思い出す。今の大陸進出ブームも、結局は低価格競争を招き国内企業は自らを窮地に追い込むことになると当時から論評していた。

 私たちはこうした「空気」と「熱狂」により、冷静な分析力を失い、数々の手痛い目に遭ってきたのだが、集団的「思い込み」には、なかなかあらがえないものだ。

 これを防衛装備品に置き換えてみると、非常に不安になってくるのである。

今後、仮に輸出や共同開発に舵を切るとしても、世界の安値競争にさらされ、のみ込まれる危険性がある。そもそも、「防衛産業」とわれわれが呼んでいるのは企業の1部門でしかなく、それも小規模で不採算とも言える。そんな虚弱体質のまま、無防備に勝負に出ていくなどあり得ないということは、これまでも再三述べてきた。

 まずは装備品製造の基盤を盤石にしなければならない。これは「装備品を輸出できれば防衛生産・技術基盤が強くなる」という巷の噂とは真逆なのである。

 共同開発にしても、「何を求められているのか」と相手の欲しいものを客観的に想像すれば、日本の技術とコスト負担、つまり「お金」だ。下手をすれば安全保障上、深刻な情報を流出させ、身ぐるみ剥がされることにもなりかねない。

 「防衛産業」と言っても日本の場合は、これまで自衛隊しか知らなかった、いわば温室育ちだ。手練手管の世界の「武器商人」とは全く質を異にする。また、どの国も国や軍と一体となって商売をしているのが当たり前なのである。

 わが国に置き換えれば、政府・自衛隊・企業がチームプレーをすることに当たる。今の日本でそんなことができるのだろうか?

 続きはまた次回。

 ■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)、「武器輸出だけでは防衛産業は守れない」(並木書房)など。


武器輸出だけでは防衛産業は守れない/桜林 美佐
¥1,575
Amazon.co.jp