建国の物語さえ知らぬ高校生98%…わが国を素直に愛したい。
大阪正論室長・河村直哉
産経ウェスト毎年2月11日の“紀元節”に橿原神宮で行われる「紀元祭」=平成25(2013)年、奈良県橿原市
昨年のことだが、雑誌「正論」に載ったある文に小さからぬ衝撃を受けた。18歳の女子学生のもの。日本人なのに日本を知らない自分に恥ずかしさを覚え、日本人の国家観はどうなのだろうと若者にアンケートした。自国の建国の歴史について知っていたのは、高校生100人のうち2人。半分以上は回答がなかった。連合国軍総司令部(GHQ)最高司令官、マッカーサーが建国したと答えた者が5人いた(山本みずき「18歳の宣戦布告 国家観なき若者に告ぐ」=平成25年5月号)。
2月11日は建国記念の日。神武天皇が即位した日にちなむ。だが何人がそれを知っており、祝うのだろうか。若者だけが責められるべきなのではない。そもそも若者は建国の物語を教えられていないだろう。
奈良県橿原市の橿原神宮は神武天皇とその皇后を祭神とする。晴れ晴れとした、潔癖かつ壮大な社だ。神武即位を起点として数える数え方で紀元2600年に当たる昭和15(1940)年に合わせ、拡張整備が行われた。全国から121万人余りが建国奉仕隊として整備に尽くしたという記録が残る。この年には1千万人近い参拝者もあったという。
単純比較できる数字ではないが、現在の参拝者は年300万人。11日に行われる紀元祭の参列者も減っているという。全体的な印象として神様を大切にすることが家庭で伝わらなくなっている、神武天皇や橿原神宮の由来について知っている日本人は1割いないのではないか、とある神職はいう。
神宮ではいまも神職がむかしと変わらず粛然と神に仕えている。早朝に神の食事である朝御饌(みけ)を用意する。水はその日くんだもの、野菜や魚もその日に調える。修祓((しゅうばつ)おはらい)、祝詞(のりと)奏上と儀式は続く。夕刻は夕御饌となる。神々も社も変わっていない。だが日本人が変わっている。
淵源にはGHQ
以下は橿原神宮についていうのでなく、筆者なりの日本の戦後についての理解である。戦後、日本人は戦争にかかわったものを封印し、遠ざけた。あるいはそれらを一方的に罪悪視し、連続した歴史を持つべき国家をリセットしようとした。冒頭、建国の歴史について知っている高校生がわずか2人というのも、この断絶による。こうした消極的な忘却だけではない。積極的に建国の日に反対する集会が、いまだに開かれたりする。
アンケートで日本を建国したのはマッカーサーと答えた者がいたのは、冗談としても笑えないが、日本の戦後史の事実を期せずして語ってもいる。
昭和20(1945)年12月、GHQは国家神道を禁じたいわゆる神道指令を出した。表記を読みやすくして引くと、指令の目的は「再教育によって国民生活を更新し」「新日本建設を実現せしむる計画に対して日本国民を援助する」など。リセットである。神道に関する「あらゆる祭式、慣例、儀式、礼式、信仰、教え、神話、伝説、哲学、神社、物的象徴」が対象となった。いろんな場で、神々は遠ざけられていった。
昭和23年にできた祝日法で祝日の宗教色は薄められ、例えば11月23日の新嘗祭(にいなめさい)は勤労感謝の日となった。2月11日の紀元節も日本は祝日として残したい意向だったが、GHQは認めず、法から除かれた。
GHQだけが否定的だったのではない。日本が独立を回復してから建国記念の日を祝日に加えることが議論され再三、法改正案も出されたが、成立しなかった。反対の世論は根強かった。建国記念の日が祝日となるのは、ようやく昭和41年のこと。そのころ出された「紀元節問題」という冊子を見ると、「紀元節復活をかちとった右翼」「悪夢再現の日」などの文言がおどろおどろしく躍る。日本人自身によって、日本という国家は批判され否定されてきたといってよい。
国家意識回復を
このような戦後史を日本人は直視すべきであろう。日本という国が古代から連綿と続き日本人が国家に属していると自覚する、つまり国家意識を回復することが、いまほど切実な課題となっていることは戦後、たぶんない。領土、歴史をめぐる中国や韓国からの圧力に、国民として踏ん張っていくべきところなのだ。冒頭のエピソードが示すごとき、国民としての根をなくしたような姿や、いまだに建国記念の日に反対するような姿勢では、外圧に抗しきれない。特に後者の左傾思潮は、さまざまに形を変えながら現代の日本をなお厚く覆っている。
今月は、日本人が日本という国を意識する機会が増える。7日にはソチ五輪が開幕した。選手個人の健闘を願うのは無論だが、五輪は国家同士の祭典でもある。日本人選手として堂々とがんばってほしいし、また日本人としてその活躍を応援したい。2000(平成12)年のシドニー五輪開幕に際し、「国家から解き放たれて」などという社説を掲げる新聞社もあったのだが、まともな日本人ならこうした言説はおかしいと、もう気づくはずである。
また、7日は北方領土の日で、22日は竹島の日だ。ロシア、韓国に不法に占拠されている日本の領土を、取り戻す機運を高める日だ。
日本を取り巻く厳しい国際状況は、今後も続くだろう。素直にこの国を愛することから始めたい。ゆがんだ戦後日本を建て直すべきときである。