【ネットろんだん】
NHK会長発言。「追及」された会見出席の記者たち。
就任会見するNHKの籾井勝人会長 =1月25日、東京都渋谷区のNHK放送センター
慰安婦問題への言及などで議論を呼んだ籾井勝人(もみい・かつと)NHK会長(70)の就任記者会見をめぐり、質問した記者の“犯人捜し”がネットの一部で白熱している。コメントを渋る籾井氏から一部マスコミが回答を無理やり引き出し、それを批判して辞任を迫った-との見立てが火を付けたからだ。だが、この会見、実際はどうだったのか。
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「朝日新聞社に『進藤翔』記者はおりません」。これは1月29日夜、朝日新聞社の公式サイトに掲載された「お知らせ」の見出しだ。発端は28日、匿名掲示板に投稿された「籾井会長に質問した記者は進藤翔(24)らしい」という書き込みだった。25日の会見後から、ネットの一部では記者の質問姿勢を問題視する声が上がると同時に、「慰安婦問題への見解を追及したのは朝日新聞記者」との臆測が広がっていた。「進藤翔」の名は同紙と結びつけられ、まとめサイトやツイッターを通じて拡散。「誘導」「執拗(しつよう)な質問」などと批判がわき起こった。
これを受けて朝日新聞社は29日、公式サイトで記者の在籍を否定。新聞社がネット上のデマを否定するのは珍しいが、同社広報部は本紙の取材に「社の判断です」とのみコメントし、詳しい説明はしなかった。
◆質問姿勢に賛否
籾井氏の就任会見には筆者も参加していた。会見は質問者が社名と姓を名乗る形で進行したが、慰安婦問題に対する籾井氏の見解について初めに質問したのは毎日新聞だった。その後、共同通信が発言の真意をめぐって籾井氏と応酬し、読売、朝日も関連質問をした。「シンドウ」と名乗った記者はいなかった。
「進藤翔」が否定されると、ネット上では「まとめサイトはデマの温床」などと虚報を流布した側にも非難が集中した。もっとも、記者の質問姿勢への賛否は分かれたままだ。「公的な立場に就く者に、歴史認識について聞いてみるというジャーナリストとして適切な行動だ」「誘導尋問みたいな質問、わざわざ陥れるような質問はどうなんだ、という批判はあってもいい」(ツイッター)
◆見抜かれる「常套手段」
ネットで会見自体が映像で衆目にさらされるようになった昨今、記者個人への批判は以前より目立つようになっている。一昨年には、大阪市の橋下徹市長の囲み取材で市長の逆質問に窮したとして、毎日放送記者に厳しい意見が相次いだ。
籾井氏の場合、慰安婦問題についての考えを問われ、一度は「コメントを控えたい」と述べたが、続けて「いいとか悪いとかいうつもりはないが…どこの国にもあったこと」と発言。その後、発言の真意をただされ、籾井氏は「会長の職はさておき」と断りを入れつつも、自ら進んで持論を展開した。NHK会長が会見で同問題に踏み込めばマスコミが報じるのは明白で、その後釈明に追われた籾井氏に、その覚悟も準備もなかったのは確かだろう。
本紙は籾井氏の発言をことさら問題視していないが、「トップとしての資質も問われそうだ」(26日付毎日新聞)といった表現で多くのマスコミが「問題化」を図った。ただ、こうした手法は「マスコミの常套(じょうとう)手段」と見なされ、会見での質問の作法を含めて批判対象になる。さらにその批判を発信できる「メディア」を読者・視聴者が手にしていることを、本紙を含めマスコミは肝に銘じなければならないだろう。(三)
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【用語解説】籾井会長の慰安婦問題発言
籾井氏は1月25日の就任会見で、慰安婦問題について「どこの国にもあった」「日韓基本条約で国際的に解決している。なぜ蒸し返されるのか」と発言。野党や韓国外務省などが反発し、NHK経営委員会は「トップの立場を軽んじた」として籾井氏を注意した。籾井氏は31日の衆院予算委員会で「個人的な意見、見解を放送に反映させることはない」と述べ陳謝した。