姫路の危険な条例…。「外国人参政権に道開く」「左派に利用される」
悪評頻々、必要性は見えず。
産経ウェスト「姫路市まちづくりと自治の条例」案に反対する市民らの街頭活動=平成25年12月8日
まちづくりなどに広く市民の声を反映することを目的とした「自治基本条例」の制定をめぐり、昨年、兵庫県姫路市が大きく揺れた。同様の条例は全国300余りの自治体で制定されているものの、重要な政策決定にあたって有権者以外も投票可能な住民投票の実施をうたっていることなどから、事実上の外国人地方参政権容認につながると批判も根強い。同市でも市民団体や一部市議が強く反対したが、12月市議会で賛成多数で可決、制定された。市側は「市の活性化につなげるための条例だ」と胸を張るが、左派勢力に利用される危険性を指摘する声もあり、なぜこの条例が必要なのかは一向に見えてこなかった。(姫路支局 中村雅和)
有権者以外に参政権?
11月下旬、姫路支局に1枚のファクスが届いた。姫路市の12月市議会で「姫路市まちづくりと自治の条例」と題した自治基本条例案が上程されることに警鐘を鳴らす市民団体からだった。
送り主は同条例案の策定当初から反対運動を続け、シンポジウムを開催するなどしてきた「姫路市自治基本条例を考える会」。前川英昭代表に連絡すると、強い口調で「条例案では、『市長は住民投票の結果を尊重する』とされており、このままでは市外の人間や20歳未満の子供、あるいは外国人の参政権も事実上、許容されかねない。そんなことが許されていいのか」と批判した。
自治基本条例は、自治体が理念や基本原則、住民参画の仕組みなどを整えて自治運営をルール化した条例だ。平成12年施行の改正地方自治法により地方分権の流れが強まったことを受け、13年4月に北海道ニセコ町が制定した「まちづくり基本条例」をはじめ、300余りの自治体で制定されている。
しかし問題点を指摘する声も多い。同条例では住民投票の規定を設けるケースが多いが、条例による住民投票は自治体の裁量で投票資格者を定めることができる。このため運用の仕方によっては有権者以外に市外在住者や外国人も投票できるようになり、市内在住者の意向が反映されない事態が懸念され、ひいては外国人らへの地方参政権容認につながるとの指摘も出ている。
姫路市の同条例案も、市内への通勤・通学者やまちづくりに参画する個人・団体などが市政の重要な事案について住民投票を行える-としたことなどから、外国人らの地方参政権容認につながるとの懸念が浮上。条例に反対する市議は「『まちづくりに関わる人や団体は悪いことはしないだろう』という性善説に立つように感じるが、特定の主義主張を持った少数派が権利を主張し、声を上げない多くの市民の利益が損なわれる危険はぬぐえない」と話す。
自治基本条例が最高法規?
市のホームページ上で公開されている「姫路市まちづくりと自治の条例」案策定の指針や経緯、条文を読むと、市民の権利や市長の権限が制限されかねないような文言が数多く並んでいた。たとえば、同条例を市の最高法規とする▽行政と姫路市在住者、通勤・通学者が対等な立場で協力する▽市政に関し、特に重要な事案について広く住民の意思を確認するため、住民投票を実施できる▽市長は住民投票の結果を尊重する-といった具合だ。
実は、市は昨年3月市議会に一度、条例案を上程し、同年4月から施行を目指したものの、一部市議や前川代表ら反対派の声を受けて断念。修正作業を進めていた。その結果、条文から「対等な立場で協力」「(条例は)最高法規」といった文言は削除された。
しかし、「今後、条例などの改廃や運用にあたってはこの条例との整合を図る」という文言は残ったまま。住民投票についての条例も自治基本条例と整合を図るのであれば、実質的に自治基本条例を最高法規と認め、地方参政権のなし崩し的な拡大につながるのではないか。そんな危惧(きぐ)は消えない。
日本大学法学部の百地章教授(憲法学)は「この条文は事実上の最高法規規定と何ら変わらない。住民投票への参加を通じて外国人参政権への道筋を開こうとしており、危険きわまりないものだ」と断じる。
かみ合わぬ議論
条例案を審議するため、12月11日に開催された姫路市議会の総務委員会は用意された10人分の傍聴席が埋まり、立ち見も出るほど。条例案に反対する保守系市議が「住民投票の投票資格者を個々に条例で定めるなど、こんないい加減な話はない」などと住民投票のあり方を厳しく追及すると、傍聴者から「そうだ」などと声が上がった。
市側は「住民投票を行う場合、案件に応じて細かい規定を定めなければならないが、その時に市長も慎重に考えるし、議会でも議論していただけると思う」などと淡々と答弁し、議論はかみ合わないままだった。
さらに賛成派の共産党市議からは「地方参政権は国の選挙とは違う。住民投票について、外国人や姫路市外の人たちが参加することがあってもいい」と驚くべき発言がなされ、これには他の市議も傍聴者も唖然とするばかりだった。
反対派の保守系市議は条例案に対し「規定が緩い地方から、参政権をなし崩しに拡大させていくことになってはいけない」とくぎを刺し、別の市議も「せめて条文の解説だけでも懸念を払拭(ふっしょく)できるようにできないのか」と指摘。市側はようやく「質問や懸念に対して答弁した内容を、より明確にするために必要なら解説の修正を行う」と応じた。
条文解説の修正で対応
市側が市議の追及を受けて修正し、約4時間後に配布された解説では、住民投票の投票資格者の範囲について「原則として市の選挙人名簿に登録されている者」などとした箇所から、例外的な解釈もできる「原則として」を削除。住民投票の結果についても、市長は「尊重する」との文言から「結果に必ず従わなければならないというものではなく、尊重していく」などと改められた。
修正された解説は周知のために各会派に持ち帰り、後日に条例案の採決を行うと決めて、この日の委員会は解散。傍聴した市民からは「解説だけ修正なんて、とんだ茶番劇」という厳しい意見も聞かれた。
市側はどういう意図なのか。担当者は「これまでの経緯を踏まえれば、今後は軽々に(修正は)行われるべきものではないと考える」と述べ、修正によって住民投票の資格者は有権者に限定され、最高法規的な解釈もできなくなったとの認識を示した。
結局、同条例案は16日に再度開かれた委員会で開会後わずか10分で可決。反対したのは保守系市議ただ一人だった。
なぜ必要なのか
19日に開かれた市議会本会議でも同条例案は反対6に対し賛成40と圧倒的多数で可決され、同日中に公布、施行された。ある市幹部は「そもそも条例案は参政権を拡大することを企図したものではない」と批判に対して疲れた顔を見せ、「あくまでまちづくりに多様な主体の参画を得ることで市の活性化につなげるためのものなのに、どうしてここまで強く反対されるのか」とこぼした。
別の幹部は条例案の修正の成果を強調し、反対派の市民や市議らの見解については、「考え方の違いとしか言いようがないと思うが、それでも丁寧に説明を重ねて、ご理解いただくしかない」と話した。
参政権という極めて重要な権利のあり方を揺るがしかねない自治基本条例。さまざまな関係者に取材してきたが、「なぜ、姫路市にこの条例が必要なのか」の疑問にはついに明確な答えが示されなかったように思える。
同様の条例制定の流れは全国で止まらない。しかし、姫路市のように反対意見を入れて修正がなされるケースは少ないようだ。先の百地教授は「左派勢力が掲げる『新しい公共』などの用語をちりばめ、外国人参政権への道筋さえ開こうとする条例の持つ危険性を無視し、『まちづくり』という美名の下に安易に同条例を制定することは慎むべきだ」と警告する。
同条例案の内容や制定の必要性にはかねて疑問を感じていたが、今後も運用のされ方をしっかりと見守っていくつもりだ。
「姫路市まちづくりと自治の条例」案に反対する市民らの街頭活動=平成25年12月8日