航空法制の抜本改正を。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 


【日曜経済講座】
成長戦略の鍵握る中小企業振興策 編集委員・田村秀男


 
主な航空機関連の中小企業
 
 経済学といえば、米英流新自由主義が世界の圧倒的主流だ。モノ・サービスについては、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)のように、関税や規制の障壁を除去する考え方が世界の主要国で受け入れられている。

 対照的に金融の方は自由化が行き過ぎたために、米国の住宅ローン証券化商品などを膨張させ、バブルを引き起こし、2008年9月には「リーマン・ショック」という近来にない世界経済危機につながった、との反省機運が特に欧州で高まっている。

 金融主導に代わる経済成長モデルをどうすればよいのか。昨年12月初旬に来日したフランス政治経済学会のアンドレ・オルレアン会長に聞くと、「国によって違うが、フランスの場合、国内投資を重視し、中小企業への投資を増やすべきだ。産業発展に特化した民間銀行も必要だ」。同時期に来日したドイツのシュレーダー前首相は菅義偉官房長官に、「ドイツ経済再生の秘訣(ひけつ)は中小企業振興策にある」と打ち明けたという。両氏とも中小企業こそが成長の機軸になるという認識だ。

 仏独と日本は金融サービス業の競争力では米英にかなわないし、伝統的に政府による産業政策が大きい役割を担う点でも共通している。従って、両国の考え方は日本にとって大いに参考になるはずだが、アベノミクス第3の矢である成長戦略には「中小企業」を重点対象にする考え方に乏しい。

全国規模で多くの中小企業者たちが新たな分野に果敢に挑戦していることは、前に本紙で取り上げた航空機関連中小企業による連合体(コンソーシアム)の広がりからみても明らかだ。新潟市の漆山企業団地では、約6千平方メートルの用地に国内初の航空機エンジン部品共同工場が建設中で、今月に操業開始する。新潟市ではまた、地元機械関連メーカーや新潟大学など研究機関が共同で小型ジェットエンジンと、それを搭載する無人飛行機を試作中だ。

 日本の航空機製造業の集積は三菱重工業や川崎重工業など大手航空機メーカーが拠点を持つ愛知県のようなタテ型である。台頭してきたのは水平連合型だ。航空機は1機当たり平均で約300万点もの部品を必要とし、しかも微細な機械加工技術や高度な電子技術を伴うので、異業種の企業が「クラスター」と呼ばれる集合体をつくって、大学や各地の技術センターなどの研究機関と企業が密接に連携する仕組みがふさわしい。

 クラスター理論の権威である清成忠男元法政大学総長は、共同代表を務める民間非営利団体「日本中小企業共同事業会-新鋭の匠」(横浜市)を通じて全国の航空機コンソーシアムと連携しながら、日の丸超音速機と次世代ジェットエンジン開発構想を練っている。独自の高度加工技術を持つ中小企業が中心となって、三菱重工業や川崎重工業など大企業、さらに有力な大学や研究機関を巻き込んで、日本とアジアを日帰り圏にする超音速機を開発・製造する国家プロジェクトだ。

実現のためには国家資金の投入が欠かせないが、財源は実はいくらである。本来、国内投資に向けられるべき国民の貯蓄100兆円以上を、政府は借り上げ、米国債に投入し、外貨準備としている。この米国債を日銀が引き取れば、容易に100兆円の開発基金を創出できる。

 最大の障害は縦割り行政と、新鋭機国産化を阻止する国内法である。

 航空機関連の法制度には国土交通省が「空の安全」を確保する航空法を、経済産業省は航空機製造事業法と航空機工業振興法をそれぞれ所管しているが、いずれも許認可プロセスが複雑だ。しかも、製造事業法は昭和32年に完成した戦後初の国産旅客機「YS11」を保護するために、各社の航空機産業への新規参入を防ぐことが目的だったとされる。工業振興法はボーイング社などとの国際共同開発参加が目的で国産機開発を視野の外に置いている。この結果、新興勢力が新規参入する道は事実上閉ざされてきた。

 新たな飛躍に向け、法制度を抜本的に改正し、縦割り行政をなくす。航空中小企業のパワーを生かし、超音速機開発で米欧と競う。それこそが、真の成長戦略になるのではないか。