【湯浅博の世界読解】
対中包囲は「海洋アジア」から結束を。米国がいれば声上げる。
東南アジア諸国連合(ASEAN)は創設以来もっとも微妙な時期を迎えている。南シナ海をめぐる中国の力による威圧を前に、島嶼(とうしょ)部の「海洋アジア」とインドシナ半島部の「半島アジア」で受け止め方に微妙なズレが起きている。
それは最近の日本・ASEAN特別首脳会議で、東シナ海上空に中国が設定した防空識別圏を念頭に置いた共同声明に、中国の「脅威」を盛り込むに至らなかったことにある。ASEANの一部は、日本と米国に「中国の影響力の相殺を期待はしていても、中国封じ込めは望んでいない」(米国防大学のサウンダース博士)からだ。
対中傾斜する朴槿恵(パク・クネ)政権の韓国を中国の“従属変数”とみれば、中国と陸続きのラオス、カンボジアなど「半島アジア」も同じ従属変数に陥りやすい。それでも、今回の共同声明が「飛行の自由および民間航空の安全確保に向けた協力強化」に踏み込めたのは、勇気ある結束の表明というべきだろう。
ASEANは冷戦期の1967年に創設され、以来40年以上もの間、平和を維持しながら経済の拡大を実現した。地域の安全保障は米国の庇護(ひご)下で享受し、地域経済は雁の先頭を飛翔(ひしょう)する日本を追った雁行形態型の発展を遂げてきた。
それが97年のアジア通貨危機では、無傷だった中国が主要国からの投資と貿易を独占して急成長し、軍事力も増強させた。力を持つと中国ほど傲慢になる国はない。小国の集まりであるASEANの指導者は、どの域内大国に合わせた方がトクであるかを計算せざるを得なくなる。
南シナ海では大半を領海とする中国の「九段線」に対抗できる沿岸国はない。ASEANは過去20年にわたり、南シナ海の領有権紛争では国際法を守るよう主張してきた。だが、フィリピンが対中領有権を国連海洋法条約による仲裁裁判に持ち込んでも、彼らの一部は中国の砲艦外交が怖くて声が出せなかった。
今回の日本・ASEAN特別首脳会議で、フィリピンは日本から巡視船を供与されることになり、日本とインドネシアは外務、防衛の閣僚協議「2プラス2」開催を視野に連携強化で合意した。マレーシアは中国の防空圏に対する日本の立場に理解を示し、過去に艦船を沈没させられたベトナムは、日本と巡視船供与の協議開始で合意した。
特にインドネシアは民主党政権に対し、対中警戒感から日米豪との連携を探った。2011年に国防相を東京に送ってきたが、武器輸出三原則がカベとなって潜水艦や巡視船の供与を受けられなかった。
中国はこの秋、習近平国家主席と李克強首相が手分けして東南アジアを歴訪し、南シナ海の領有権をめぐる軋轢(あつれき)を、貿易とインフラをふりまく微笑外交で修正を試みた。対する安倍政権は、中国が防空圏を設定してから時機を失することなくASEANと「航行の自由」「飛行の自由」で合意してこれを押し戻した。
今後、ASEANがこのまま中国に国際法順守を主張し続けられるかは、米国の関与の程度にかかる。アジアの指導者は東アジア首脳会議など米国が参加する会議だと日本に唱和して対中批判の声を上げる傾向があるからだ。安倍政権は日米同盟を軸に、豪印ASEANの「海洋アジア」から結束を固め、「半島アジア」に拡大する戦略が求められる。(東京特派員)